研究概要 |
クロマグロ血液から見いだされたセレン含有イミダゾール化倉物セレノネインの細胞内取り込みおよび生体抗酸化作用を解析した。エルゴチオネインのトランスポーターとして報告された有機カチオン/カルニチントランスポーター(OCTN1)の発現を抑制したゼブラフィッシュ胚では赤血球へのセレノネインの取り込みが抑制され,逆に,ヒトOCTN1を過剰に発現するヒト腎臓由来HEK293細胞ではセレノネインの取り込みが促進された。OCTN1によるセレノネインの取り込みのミカエリス指数Km値は,ゼブラフィッシュ赤血球では9.5μM,HEK293細胞では13.0μMであり,セレノネインはOCTN1の特異的な基質であることが確認された。ヒト臍帯由来細胞HUVECの培地にセレノネイン酸化型二量体を添加したところ,セレノネインは細胞増殖促進作用を示すとともに,過酸化水素による酸化ストレス条件に対して耐性を示した。ウサギ赤血球へのセレノネイン投与ではROSの生成およびヘモグロビンのメト化が抑制された。ブリ活魚への静脈投与によって,血合筋でのRos生成とメト化がin vivoで抑制され,肉色の褐変が抑制された。これらの結果から,セレノネインは生体抗酸化作用に働き,養殖魚の品質を決定する重要な成分であることが推定された。 HPLC-ICP-MSによるセレン化合物の分析法を確立し,水産物におけるセレノネインの分布を調べたところ,魚類普通筋中のセレノネインはカジキ類およびマグロ類に多く含まれ,その含有量はメカジキ2.8nmol/g,メバチ2.6nmol/g,クロマグロ2.4nmol/g,・ビンナガ1.7nm.l/gおよびキハダ1.6nmol/gであった。一方,キンメダイ,マイワシ,アオメエソ,カツオ,マサバ,マアジ,マダイ,ヤマトカマス,マアナゴ,カタクチイワシ,サケ,サンマ,シログチおよびマコガレイ筋肉では1.4nmol/g以下であった。また,鶏肉および牛肉中のセレノネイン含量は低く,検出限界以下であった。セレノネインは高次捕食魚に多く含まれることから,海洋生態系の食物連鎖によって生物濃縮されて,海洋動物のヘムの自動酸化抑制に作用すると考えられた。セレノネインは可食部の筋肉にも含まれることから魚食由来の主要な有機セレンであり,生体抗酸化に作用する生理活性の高い栄養成分であることが明らかとなった。
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