研究課題/領域番号 |
23248041
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
堀野 治彦 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (30212202)
|
研究分担者 |
中村 公人 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30293921)
濱 武英 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30512008)
松野 裕 近畿大学, 農学部, 教授 (50340766)
中桐 貴生 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (80301430)
櫻井 伸治 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30531032)
|
研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
|
キーワード | 循環灌漑 / 排水再利用 / 負荷削減 / 農家意識 |
研究概要 |
琵琶湖周辺の水田における農業排水の循環利用(再利用)は、水資源の有効利用のみならず排出負荷削減等による環境配慮効果の点からも重要であることを実証的に検討することを目的とし、昨年度に選定した事例地区において、原則これまでと同様の水文・水質観測を継続した。このほか、新規に比較対照のための水田事例区を設けるとともに、環境や循環灌漑に対するアンケート調査を実施した。これらの具体的な成果実績は以下の通りである。 1.水量観測の継続と調査地の新設:昨年度水田用排水の観測体制を整備した琵琶湖の東岸・安土地区および西岸・鴨川流域地区の循環灌漑水田群において用排水路の水量を年間を通じ観測した。また、循環灌漑の特質をより明確に抽出するために、新たに非循環灌漑の水田群を比較対照観測区として鴨川流域地区に設け、同様に用排水量の計測を開始した。今のところ、地区によらず用水量に大差がないことが確認されている。 2.質的水環境調査の継続:いずれの事例区においても水田群からの排出負荷が鍵となることから、特に栄養塩類を構成する窒素・リンや有機汚濁物質成分について各用排水の水質分析を継続した。同様に、大気降下物の観測も継続した。水田の用水や排水については、特にTOCとCODの関係に着目して詳細に検討したところ、灌漑の形態により両者の関係が変化することが確認された。 3.循環灌漑に対する意識調査:収量・品質情報、および排水の循環利用に対する営農者の意識について把握するためのアンケート調査を、循環灌漑地区と非循環灌漑地区の農家を対象にランダム選定した集落単位の悉皆で行った。その結果、循環灌漑の長所や短所をある程度認識しているものの、同灌漑方法の是非については戸惑っている様子がうかがえた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は観測体制(現場での協力、観測システムの整備など)に遅れが生じていたが、今年度順調に水文および水質データの蓄積を進めることができており、研究目的達成に向けた不安は解消されている。また、現地のご協力によりアンケート調査も予想以上の回収率(81%)を達成できており、分析に十分なサンプルが収集された。現在のところ、観測機器等にも不調は見られず、現地の土地改良区のサポートも担保されていることから、一層の用排水量データ、水質データ、大気降下物データなどの蓄積を図り、合わせてアンケート結果の分析を進めることにより当初の目的達成に近づけるものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
水田の灌漑用水利用は気象条件によって大きく異なるために、複数年の調査が不可欠である。したがって、平成25 年度においても、これまでと同様の水文・水質等の諸量の観測を継続する。また、実施したアンケート調査の結果を踏まえて、農業的水管理を主体的に担っている土地改良区の職員に用水管理の原則的な運用指針を聞き取り調査する。一方、収集された観測データの解析も並行して進め、特に次のような事項を整理検討することにより、最終的な総括を行う。 1.地区外への負荷流出の経時変化:各地区において排水路の水質(濃度)や水量がどのように変化し、結果的に地区外への負荷量がどのように経時的に変化するかを明らかにする。 2.排水利用可能量評価、 および循環取水率と負荷削減効果の関係:用水量と排水再利用量から循環取水率を計算すると同時に利用可能な最大の排水量を整理する。また、地区内外への流入・流出負荷を求めることによって差し引き排出負荷量を算定し、時期や地区に応じて、循環取水率と流出あるいは差し引き排出負荷量の関係を明らかにする。 3.水田ブロックの水・物質収支:循環灌漑の導入水田群と非導入水田群それぞれにおいて、用排水濃度や負荷量の違いを検討し、水田の浄化機能が循環灌漑によってどう変化するのかを定量評価する。また、非潅漑期の流出負荷特性についても実証し、年間を通じた水・物質収支を見積もることによって、改めて循環灌漑による負荷構造を整理する。 4.循環利用形態の違いによる負荷削減効果:循環取水率の変化に応じて用水濃度が変化し、水田群の水・物質動態によって排水濃度が決まる。これらのモデル化を通じて、最終的に、琵琶湖への流出負荷量(あるいは差し引き排出負荷量)の削減には、各地区おける排水利用可能量に照らし、どの程度の循環取水率が効果的かなどを付加的な管理(除塵、ポンプ維持管理など)の視点も含め総合的に検討する。
|