研究課題
平成26年度は、従来の研究を進めつつ同時並行で新たな実験の試行錯誤を開始した。「糞に含まれる核からの個体作出」は、糞から安定した核の回収方法を確立したものの、現在まで核移植した卵子を発生させることに成功していない。核移植後、糞由来の核はめったに膨化せず、たとえ膨化しても2細胞期へ発生しなかった。このテーマは今後も継続していくが、発想の大きな転換を必要とする。「異種の単一染色体移植技術」は、工程が長いだけでなく、各工程が難しく、安定した技術になっていない。それぞれの工程を見直し改善を試みたが、十分な量の試行錯誤が出来なかったためか、良い結果を得ることが出来なかった。だが単一染色体移植は世界初の技術であり確実に再現できるため、次年度はより力を入れる予定である。その他さまざまな独立したテーマの予備的な実験を行った。将来大型動物へ胚を移植する場合、実験室から動物園などへ胚を輸送する必要がある。そこで非常 にシンプルで低コストな胚の輸送方法を開発することに成功した。この成果は現在投稿中である。一方、尿から細胞を回収し、そこから世界で初めてクローンマウスを作出することに成功した。絶滅危惧種の場合、たとえ個体を得られても傷つけ細胞を回収することが困難なため、無傷でドナー細胞を回収できる方法として価値がある。今後は出産率の改善および多系統での成功例などを追加する予定である。
4: 遅れている
山梨大へ異動して2年目であり、初年度に全力で研究室のセットアップを行ったため、実験室の環境は整ってきた。しかしマウス棟の飼育環境が依然として安定せず、本研究に必須の胚移植による産仔作出成績が対象区でもばらついてしまった。技術改良による成績改善を目標とする本課題は、同時に行う対象区が非常に重要であり、この状況下では実験区の答えをだすことが出来なかった。そこで細かな技術改良より新規の実験を多く試みた。幸いまったく新しいテーマである「尿細胞を用いた核移植」は成功し、世界初の尿由来クローンマウスが誕生した。この研究でも飼育環境の影響が出ていることから、出産成績については正しい答えを出せず、論文発表まで進ませることができなかった。
動物飼育施設は、どこでも安定するまで数年を要すると聞いている。当研究室のマウス棟は2年半前に建てられたため、そろそろ安定するはずである。すでに遺伝子改変マウスなどの系統維持は安定してきている。そこで、これ以上遅れることを避けるため、現時点の出産成績を基準として技術改良を試み、また同時に新規のテーマを数多く試みる。本課題において、壁にぶつかったテーマは発想の転換を行わなければならず、新たな発想はたくさんの試行錯誤と失敗を繰り返すことで生まれてくる。この2年間の遅れを取り戻すため出来る限り多くの試行錯誤を試みる。大学側のご厚意により、当研究室が所有するマイクロマニピュレーターは14セットになった。これは世界最大規模である。学部学生に技術指導することが必要であり時間が取られるが、マニピュレーターをフル稼働させることで当研究室でしか成し遂げられない成果が出せるはずである。具体的には、核の前処理方法の工夫(薬品処理、物理的処理、生理的処理など)、核移植技術の工夫(細胞骨格系の処理、核移植時期、時間など)、染色体認識技術の工夫(ピペットのサイズ、薬剤処理、抗体染色など)、および基本的な胚操作条件などについて膨大な量の試行錯誤を繰り返し、予想外の結果を引き出し、そこから新たな発想を得て実験を成功させるのが、本研究課題の最適な推進方策である。
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