研究概要 |
本研究は、ヒト味覚計測用培養細胞系の樹立、基本味受容細胞を完全消失したマウス・基本味伝達路をWGAで可視化したマウスの創出、食刺激に伴う味覚野・運動野の活性化マーカー分子の取得等、味覚シグナルの発信・伝導・認知の分子論的統合解析を実施した。 [1]塩味受容システム関連遺伝子の探索:Skn-1ノックアウトマウスの有郭乳頭上皮を用いたDNAマイクロアレイ解析の結果を、野生型のものと比較することにより、味蕾細胞種特異的に発現する候補遺伝子を抽出した。塩味の受容を担う味細胞は甘・旨・苦味受容のtype IIや酸味受容のtype III細胞と異なる。type I細胞であることが示唆されている。type I味蕾細胞(または味蕾全体)に特異的に発現する候補遺伝子のうち、膜貫通領域を持つものをタンパク質情報データベースUniProtおよび膜貫通部位予測プログラムSOSUIを用いて抽出し、ISHを行って味蕾での発現を調べた。このうち、味蕾全体ではなく一部の味蕾細胞に特異的に強い発現が見られたAnol, Kcne3, Sec6lalについては二重ISHを行い、type I味蕾細胞に特異的に発現していることを確認した。 [2]味覚と食欲の関連性の解析:動物はショ糖(甘味)やアミノ酸(旨味)を嗜好し、キニーネ(苦味)やクエン酸(酸味)を忌避する。ラットにこれらの味物質を添加した食餌を与え、摂食量を測定し、味覚が食欲に密接に関連するかを解析した。その結果、嗜好味である甘・旨味餌の摂食量に変化は見られないが、苦味餌は有意に忌避することが示された。さらに、甘味、旨味、苦味の受容細胞を欠失し、これらの味覚不全のS-KOマウスでも苦味餌を有意に忌避することから、苦味餌の忌避性は味覚のみならず消化管において感知機構が存在することが示唆された。
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