研究実績の概要 |
脳血管疾患は、我が国の死因別死亡率第4位、要介護第1位の重篤な疾患であり、その6割が脳梗塞である。本研究は、虚血性疾患の新たな診断薬・治療薬としてDDS製剤の有効性を示し、新たな診断・治療法を確立することを目的とした。脳虚血再灌流モデルには、栓子法による一過性中大脳動脈閉塞モデル(t-MCAO)ラットを用いた。蛍光標識リポソームを用いた検討から、リポソームが早期から虚血部位およびペナンブラに集積することを明らかとした(BBRC, 2013)。次に脳細胞保護作用が知られるアシアロエリスロポエチン(A-EPO)を用いたDDS製剤の有効性を検討した結果、A-EPOリポソームが虚血部位での脳細胞死を抑制することを明らかとした(JCR, 2012)。また脳虚血の後遺症として見られる運動能の有意な回復効果が認められた(IJP, 2012)。さらにリポソーム化低分子薬剤(FK506)においても虚血再灌流障害を抑制することが明らかとなった(FASEB J, 2013)。 本年度は脳梗塞のPETイメージングを試みた。ポジトロン放出核種で標識したリポソームを投与したt-MCAOラットにおいて、虚血側脳半球の放射活性上昇率が対象側脳半球に比べて、顕著に高いことを見出した(Artif. Organs, 2014)。また臨床応用可能な薬剤選択としてFasudilを用いた脳梗塞治療を検討した。Fasudilはくも膜下出血後の脳血管攣縮抑制薬として既に保険適用されており、脳梗塞に対する有効性が多数報告されている。安全性に関しても多くの情報が蓄積されている。Fasudilは高効率にリポソームに内封されることから、臨床応用に直結した製剤開発に至る可能性が高い。実際に、Fasudil-Lipの脳梗塞治療効果を検討した結果、脳細胞傷害、運動機能低下、脳浮腫の増悪を有意に抑制した。リポソームDDS製剤は血流再開後だけでなく虚血時の投与によっても脳梗塞に対する治療効果を発揮することから、超急性期においても治療効果が期待できる。
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