研究概要 |
これまでに我々は、カイコを感染宿主として様々な病原性細菌が感染することを明らかにしてきた。本研究課題では、代表的な病原性細菌である黄色ブドウ球菌のカイコ感染システムの解明を通して、病原体と宿主の相互作用を統合的に理解することを目的とした。我々は、(1)カイコ感染に必要な黄色ブドウ球菌の病原性遺伝子の網羅的同定と機能解析、(2)黄色ブドウ球菌の感染に対するカイコの防御因子の同定と機能解析、(3)それらの知見に基づき宿主-病原体相互作用の分子機構の普遍性と多様性の解明を行う。 23年度において、我々は、カイコ感染に必要な遺伝子として、転写調節因子であるagr, arlRS, saeS, 接着関連因子であるsrtA, clfB, sdrCを同定した。このとき、溶血毒素の欠損株はカイコに対する感染能が低下なかった(Miyazaki S, et al 2012)。次に、我々はカイコの体液が黄色ブドウ球菌の溶血毒素産生能を阻害することを見出した。さらに我々は、黄色ブドウ球菌の溶血毒素の産生を阻害する活性を指標として、カイコの体液中の因子を精製した。N末端アミノ酸配列の決定からこの因子はApolipophorin(ApoLp)であることが判明した。ApoLpは黄色ブドウ球菌の溶血毒素をコードするhla、およびその転写を促進するsaeRSとRNAIIIの発現低下を導いた。抗ApoLp抗体を体液内に注射したカイコは黄色ブドウ球菌に対する感受性が増加した。哺乳動物の粘液成分であるムチンはApoLpのC末端領域に相同性を示す。ブタ胃由来ムチンを培地に添加すると、黄色ブドウ球菌のhlaの発現量が低下した。以上の結果は、カイコの体液タンパク質ApoLpが黄色ブドウ球菌の病原性を抑制し黄色ブドウ球菌に対する抵抗性に働くこと、並びに、その活性は哺乳動物のムチンと相同であることを示唆する(Hanada Y, et al 2012)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回同定された黄色ブドウ球菌の病原性遺伝子群の発現における調節機構の解明を、当初の24年度の予定である、我々が同定した黄色ブドウ球菌の病原性因子CvfA、CvfB、CvfC、SarZ(Kaito C,et.al.,2005,Kaito C,et.al.,2006)の機能解析と合わせて行う。また、2012年のCell誌に、CvfAの枯草菌のホモログが、リボソームRNAを分解するRNaseとして働くと報告があった(Segev E,et,al.,2012)。それより前の2008年に、我々は、Journal of Biological Chemistry誌にCvfAのRNase活性が黄色ブドウ球菌の病原性に必要であることを報告していた(Nagata M,et.al.,2008)。CvfAのRNA分解機構や標的となるRNAの同定、さらにその調節機構の解明に重点をおいて解析する予定である。 また、黄色ブドウ球菌の毒素産生を抑制する因子としてカイコ体液中から同定されたApolipophorinがどのような機構で黄色ブドウ球菌の毒素産生を抑制するか明らかにする予定である。当初は、25年度に行う予定の研究であったが、24年度に行うことにする。具体的には、Apolipophorinが結合する黄色ブドウ球菌の分子の同定とその結合の影響について明らかにする。
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