TRPM2は温度感受性TRPチャネルで非選択性陽イオンチャネルとして機能する。TRPM2が無刺激の時には活性化温度閾値が47度くらいと高いのに、過酸化水素でアミノ末端の1つのメチオニンが酸化されると感作されて活性化温度閾値が体温域に低下して体温で活性化されて機能増強することを報告してきた。そして、このTRPM2の過酸化水素による感作がマウスマクロファージのサイトカイン放出能や細菌貪食能に関わり、体温による免疫能制御に必要であることを提唱してきた。このTRPM2のレドックスシグナル制御がほかの細胞・臓器の生理機能に関わることを検証した。焦点をあてたのはTRPM2がインスリン分泌に関わることが明らかになっている膵臓β細胞である。膵臓β細胞は抗酸化に関わる酵素の発現が著しく低く、グルコースで過酸化水素産生が促されることが明らかになっている。細胞内カルシウムイメージング法で解析すると、野生型マウスから調整した膵臓β細胞では過酸化水素処理によって温度感受性が著しく増強したが、TRPM2欠損膵臓β細胞では過酸化水素の効果は消失していた。このTRPM2依存的な膵臓β細胞の過酸化水素による細胞内カルシウム濃度上昇は細胞外カルシウム依存性であり、細胞膜に発現するTRPM2によってもたらされているものと考えられた。LysosomeのTRPM2の関与は否定された。グルコースによるマウス膵島からのインスリン放出は温度上昇依存的に増大し、この温度依存的なグルコースによるインスリン放出は、TRPM2欠損膵島では著しく減弱しており、還元剤N-アセチル-L-システイン (NAC)依存性があった。こうした結果から、膵臓β細胞での内因性のレドックスシグナルは体温下でTRPM2の感作を介してインスリン放出を促進しているものと考えられた。
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