研究課題
1. 神経特異的Girdinコンディショナルマウスの作成Girdin+/-マウスのLacZ染色による全身におけるGirdinの発現を検索した。その結果、中枢神経系、自律神経系、腸管神経系を含む広範な神経細胞、一部の血管、腱や心臓弁などにGirdinの発現が強く見られた。そこで神経系におけるGirdinの発現の意義をさらに明らかにするため、Girdin flox:nestin Creマウスを用いた神経系特異的コンディショナルノックアウトマウス(Girdin cKOマウス)を作製した。Girdin cKOマウスでは歯状回顆粒層神経細胞の分散やrostral migratory stream(RMS)の拡大を伴う嗅球の低形成が見られ、生後1か月以内に全例が死亡するというGirdin KOマウスとほぼ同じ表現型を示した。この結果はGirdinのnestin系列細胞での発現が生体内での生理機能にとって重要であることを証明した。2.自家静脈グラフトモデルで誘導される内膜肥厚におけるGirdinの役割閉塞性動脈硬化症の臨床例に類似した静脈グラフトモデルを用いて内膜肥厚におけるGirdinの役割を検討した。内膜肥厚は静脈グラフト後約1週間で明瞭になり、4週頃にピークに達する。肥厚した内膜におけるGirdinの発現を免疫染色法およびウェスタンブロット法にて検討したところ、グラフト後7日目で有意に増強し、2週間頃に発現がピークに達し、その後減少した。蛍光抗体法により肥厚した内膜で増殖している平滑筋細胞においてGirdinの発現が増強していることが明らかになった。静脈グラフトより血管平滑筋を分離培養し、 siRNAでGirdinの発現をノックダウンすると、培養平滑筋細胞の増殖能、運動能ともに有意に低下し、Girdinがその増殖能、運動能に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本プロジェクトでは神経新生におけるGirdinの機能をより詳細に解析するため、nestin陽性神経細胞においてのみGirdinの発現をノックアウトするコンディショナルノックアウトマウスを作製した。その結果、作製したコンディショナルマウスの表現型がノックアウトマウスの表現型をほぼ再現でき、nestin陽性神経細胞におけるGirdinの発現が生理的に極めて重要であることが明らかになった。脳室下帯および海馬歯状回における神経新生と脳室下帯から嗅球への神経細胞の移動にGirdinが機能していることが判明した。閉塞性動脈硬化症のモデルマウスを用いて、内膜肥厚におけるGirdinの役割を明らかにし、Girdinをノックダウンすることにより、内膜肥厚が有意に抑えられることを証明した。Girdinの発現を抑制することによる静脈グラフトによる内膜肥厚を抑える治療法の開発にもつながる成果である。以上の研究成果により、本プロジェクトはおおむね順調に進展していると評価している。
Girdinノックアウトマウス、nestin陽性神経細胞におけるコンディショナルノックアウトマウスにおいて大脳皮質、海馬、嗅球にinterneuronの分布異常、遊走異常を観察している。今後、interneuronの異常とそれがどのような機能異常をもたらすかの解析を進める予定である。またGirdinノックアウトマウスではてんかん発作が頻繁に観察されることから、海馬の形態異常とてんかん発作との関連性についても解析を進める。GirdinファミリータンパクであるDapleの個体レベルでの機能解析を、特に神経系に注目して解析する。Dapleも海馬を中心に神経系に発現が強く認めるので、形態学的異常とそれに伴う機能異常について研究を進める。血管新生についてはGirdinの血管特異的コンディショナルマウスの作製を進め、マウス皮下に腫瘍を移植し、腫瘍内血管新生におけるGirdinの役割を解析する。
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