研究概要 |
本研究は、Tリンパ球のレパトア形成を担う胸腺微小環境の分子本態解明に向けて、(1)皮質と髄質それぞれの胸腺上皮細胞に発現される自己ペプチドの同定、(2)皮質上皮細胞と髄質上皮細胞それぞれの亜集団の同定と分化系譜分岐機構の解析、(3)マウス胸腺上皮細胞の解析成果の応用によるヒト胸腺上皮細胞解析技術の開発を目指している。この目的で本年度は、(1)K5D1tgマウスをβ5t欠損マウスと交配し、β5t陽性の正常胸腺皮質上皮細胞と共にβ5t欠損の皮質上皮細胞の大量調製を開始した。また、大量調製された胸腺皮質上皮細胞を出発材料に、胸腺上皮細胞に発現される自己ペプチドの同定試行を開始した。並行して、大量調製の容易な細胞株を出発材料にしたMHC会合ペプチドの同定が可能であることを示した。(2)正常マウスから粗精製した皮質上皮細胞と髄質上皮細胞からRMを調製してマイクロアレイ解析を行い、皮質上皮細胞に選択的に発現の高い細胞表面分子CD83,CD102,CD205,CD249,CD274、髄質上皮細胞に選択的に発現の高い細胞表面分子CD55,CD80,CD86を見いだした。これらの分子を指標に、胸腺上皮細胞亜集団め同定を進めている。(3)マウスを用いた胸腺上皮細胞の解析成果がヒトの免疫システム理解につながるのかは重要な課題である。そこで、上記の如く同定されたCD分子を使ってヒト胸腺上皮細胞とその亜集団の検出が可能か解析を開始し、少なくともCD205はヒト皮質上皮細胞の同定に有用であることが示された。本研究の成果は、Tリンパ球レパトアを形成する胸腺微小環塊の構築と機能を担う分子本態の解明に寄与し、獲得免疫システムを特徴づける本質の理解に貢献すると期待される。また、Tリンパ球レパトアへの介入による自己免疫疾患の根本的治療法の開発に有用と期待される。
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