研究課題
基盤研究(A)
血栓症は21世紀の国民病であり、その治療や予防に用いられる抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬)には莫大な医療費が投じられている。薬剤効果には個体差が大きく、安全、効率的な治療にはモニター検査が重要である。しかるにこれまで使用されてきた検査、例えば血小板機能検査については、手技の複雑さ等から理想的なモニター検査とは程遠い。またAPTTやPTは凝固能を包括的に捉えるため本来の薬剤標的を特異的に捉えているものではない。今後、分子標的が明確な抗血栓薬が主流となれば薬剤に応じた精度の高いモニター検査が求められる。本研究は従来型の血小板機能検査や凝固検査から脱却し、治療薬に特異的な新しい臨床検査指標を包括的に探索開発することである。今年度は5年計画の最初の年度として、通常使用されている抗血栓薬一つであるクロピドグレルにまず着目し、患者や健常人の検体収集を開始した。また近年保険収載され急速に普及しつつある抗凝固薬のうち特に抗Xa薬に着目し、有用なモニター法を探索する為の予備検討を開始した。研究期間中、当初予定していた計画の他に下記が新たに追加され、対象疾患、薬剤、血栓形成能評価法がより幅広くカバーされる体制となった。(1)対象疾患としては当初脳血管障害、冠動脈疾患、周術期患者血栓予防、としていたが、これらに加え心房中隔欠損(ASD)に対するパッチ手術時の血栓予防のための抗血小板薬使用、(2)薬剤の使用法の検討としてクロピドグレルの粉砕内服によるローディーングの効果(血小板機能に与える影響)、(3)血栓形成能評価法として研究実施計画に記載したPFA-100やVerifyNowに加え、新規に開発された血栓形成能解析システム(T-TAS)を取り上げた。
2: おおむね順調に進展している
トータルではおおむね順調に進展している。上述のように研究対象をやや拡大し、対象疾患の追加、血栓形成能評価の為の検査機器の基礎検討、そして抗血栓薬内服法による違いを検討することにより、多くのデータが期待できる環境を作った。
当初から予定している薬剤服用中の対象患者(抗血小板薬としてアスピリン、クロピドグレル、プラスグレル、シロスタゾール、そして抗凝固薬として抗Xa薬、抗トロンビン薬、ヘパリン、ヘパリン様物質、ワルファリンなど)の検体収集を進めるとともに、計画に従って薬剤に対する反応をin vitro細胞系で評価するシステムを確立する。作用点が既知の抗血栓薬については標的分子の下流にある因子の変化を包括的にスクリーニングし、臨床検査として実用的なものの絞り込みを行う。
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