研究課題
血栓症は21世紀の国民病であり、その治療や予防に用いられる抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬)には莫大な医療費が投じられている。薬剤効果には個体差が大きく、安全、効率的な治療にはモニター検査が重要である。しかるにこれまで使用されてきた検査、例えば血小板機能検査については、手技の複雑さ等から理想的なモニター検査とは程遠い。本研究の目的は、現在市場に出ている抗血小板薬、抗凝固薬、ならびに近未来に主流になると予想される抗血小板薬、抗凝固薬の効果判定の為のモニター法を確立し、これを臨床研究によるアウトカムとの関連にて検証し、標準化に向けた基礎的データを得ることにある。従来型の血小板機能検査や凝固検査の他に、治療薬に特異的な新しい臨床検査指標を包括的に探索開発することにより個々の患者における抗血栓療法の最適化を目指す。平成26年度は5年計画の4年目として、それまでの研究の継続として近年保険収載され急速に普及している抗凝固薬のうち特に抗トロンビン薬と抗Xa薬に着目し、有用なモニター法を探索する為の検討を行った。具体的には抗Xa薬リバーロキサバン、アピキサバンやエドキサバンが凝固検査値に与える影響について検討した。プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)およびアンチトロンビン(AT)活性を測定し、測定値の変動を検討した。PTは6試薬、APTTは4試薬、AT活性は2試薬(試薬中の残存トロンビンあるいは残存Xaにより測定される合成基質法)で測定し、試薬間差の検討を行った。各測定試薬に対する感受性はエドキサバンとリバーロキサバンが類似していた。凝固検査に対する新規経口抗凝固薬の影響を十分に理解したうえで、服用患者における検査値を慎重に解釈する必要があると考えられた。
3: やや遅れている
共同研究者の異動等により検体収集が遅れている。このため臨床研究が遅れている。しかしながら新規抗凝固薬のモニター法と新規血小板機能測定法については具体的な研究成果が得られている。特にNOACのモニタリングについては予定以上の展開が見られた。
今年度は最終年度として、抗血小板薬、抗凝固薬服用中の患者の検体収集を進めるとともに、計画に従って薬剤に対する反応評価を継続する。今後、分子標的が明確な抗血栓薬が主流となれば薬剤に応じた精度の高いモニター検査が求められる。本研究では従来型の血小板機能検査や凝固検査から脱却し、治療薬に特異的な新しい臨床検査指標を検討している。当初から予定している通り、各種疾患で抗血小板薬、抗凝固薬服用中の患者の検体収集を進める。作用点が既知の抗血栓薬については標的分子の下流にある因子の変化に着目し臨床検査として実用的なものの絞り込みを行ってゆく予定である。新規経口抗凝固薬(NOAC)の血中濃度定量アッセイ試薬の基礎検討を引き続き継続する。直接トロンビン阻害薬定量試薬および直接Xa阻害薬定量試薬については基本的性能評価として再現性、直線性試験、最小検出限界試験、干渉物質の影響を、また正確性評価として当該NOACの添加濃度真値との比較相関、および液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)による測定濃度との比較相関の確認を行う。さらに測定法比較としてAPTTやPTに基づく測定との比較を行い、LC-MS/MSによる濃度測定を通じて各測定法の特徴の解明を行う。一方、抗血小板薬の臨床研究における対象症例については、当初の予定に加え心房中隔欠損(ASD)に対するパッチ手術時の血栓予防のための抗血小板薬使用や、クロピドグレルの粉砕内服によるローディーングの効果(血小板機能に与える影響)を検討してきたが、抗血小板薬が及ぼす血小板内代謝変化に対する探索について、候補因子解析を骨髄単核球細胞や脂肪前駆細胞からの血小板産生過程において行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
臨床検査
巻: 59(2) ページ: 173-9
The Journal of the American Medical Association.
巻: 312(23) ページ: 2510-20
10.1001/jama.2014.15690