研究課題/領域番号 |
23249038
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 謙一 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40166947)
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研究分担者 |
森本 恵子 奈良女子大学, その他部局等, 教授 (30220081)
呉林 なごみ 順天堂大学, 医学部, 准教授 (50133335)
上山 敬司 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (50264875)
桑平 一郎 東海大学, 医学部, 教授 (60186567)
白井 幹康 独立行政法人国立循環器病研究センター, その他部局等, その他 (70162758)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 睡眠時無呼吸症候群 / 間歇的低酸素 / 肺高血圧 / 心機能障害 / 性差医学 / 歯学 / 認知機能障害 |
研究概要 |
SASモデルとしてのIHラットでは交感神経副腎髄質系の活性化により中枢性β1ARと肺末梢性β2ARを介して低酸素性肺血管収縮(HPV)が抑制されていることを明らかにした。さらに交感神経節遮断後のβ3AR刺激薬投与で、IHでは100-500umで著明に血管拡張し、肺末梢性β3ARもHPV抑制の主たる機構であることが分かった。ところがIH肺血管におけるβ3AR免疫染色で血管壁の発現は増加しておらず、むしろ血管周囲に集簇するmacrophageで増加していることから、β3AR依存性の肺血管拡張性制御はmacrophageを介している可能性がある。一方、冠循環に関して、IH後のLangendorffを用いた摘出潅流心でIHでは冠血管抵抗が上昇しているが、急性低酸素暴露に対してIHでは対照に比してむしろ冠血流を維持する能力が高いことが明らかとなり、従来のIH+心筋梗塞モデルにおけるischemic preconditioning効果は冠動脈の機能的変化に依存する可能性がある。SASの性差医学においては、女性におけるSASが閉経期以降に急増する傾向があることが知られ、estrogenのSAS予防効果が推定されている。卵巣摘出ラットと卵巣摘出後estrogen補充ratのIH暴露による比較では後者の方が血圧上昇率が有意に低く抑えられており、卵巣摘出後のIHで上昇する血中Endothelin1をestrogen投与が抑制するとの実験結果が強く影響していると思われる。ほか、最近小児SASが問題になっており生来の顔面骨の形状がSASのriskとされているが、IHラットを使った顔面計測からは、IHにより顔面骨の成長が逆に影響を受けることが分かった。またSASと認知機能障害に関して、IHラットでは海馬の神経変性が生じることが分かり、IHが認知機能に影響を与えることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
IHにおけるHPV抑制作用については当初は血管の内在性のメカニズムに焦点をおいた研究を行っており一定の成果を得ていたが、想定外のことに肺内macrophageの肺循環制御の可能性を見いだした。またIHにより顎顔面骨の成長に形態的変化をもたらすとの新知見は、小児SASにおける新たな病態生理解明および治療戦略につながる可能性がある。さらにIHでの海馬における神経細胞変性は比較的早い段階から生じることが分かり、SASの早期治療介入が神経学的予後に影響する可能性を示唆した。これらの知見は当初の予想を超えた、かつ臨床的にも有意義な発見であり、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
IHにおける肺内macrophageの肺循環制御に関しては、clodronateの定期接種によるmacrophage消失モデルを作成し、低酸素暴露等に対する肺血管応答を評価することでmacrophageの寄与を定量する。またIHの血管周囲に集簇するmacrophageのsubtype(M1、2)を免疫染色などを用いて明らかにする。冠血流に関しては冠動脈平滑筋細胞内のmitochondriaの機能評価(ATP合成・消費、ROS産生)を行う。性差医学についてはestrogenがEndothelin1合成を抑制するメカニズムについて追究する。またestrogenによるeNOS活性化、NO合成についても実験を行う。IHの顎顔面骨形成に関する研究は骨成長のfactorであるBMP、VEGF、全身Ca分布、骨粗鬆化などについて検討する。認知機能に関してはIH後のratで行動試験を行い、認知機能評価を行う予定である。
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