研究課題/領域番号 |
23249060
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉川 武男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, チームリーダー (30249958)
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研究分担者 |
山田 和男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 副チームリーダー (10322695)
前川 素子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (50435731)
濱崎 景 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (50533494)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 必須脂肪酸 / 脳発達期 / GABA / オリゴデンドロサイト / 転写因子 / 遺伝子発現 / DNAメチル化 |
研究概要 |
昨年度までの研究で、必須脂肪酸であるアラキドン酸(AA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を、マウスにおいて受精2週間前から、離乳までの間不足させると、マウスが成体になったとき、統合失調症用行動テストバッテリーの一部で異常を示すことが判明した。これはヒトに置き換えると、ARMS (At Risk Mental State)と考えることも出来る。つまり、脳発達期の必須脂肪酸という栄養素の不足は、動物で精神疾患脆弱性基盤形成の1つの因子となり得ると解釈でき、この事実は、近年の大規模な疫学調査で判明したオランダと中国における2つの大飢饉の事例、つまり妊娠中の母親が一時的に飢饉にさらされると子供の将来の統合失調症発症率が2倍に高まる(Susser et al., Arch Gen Psychiat, 1992; St Clair et al., JAMA, 2005)という疫学データと対応可能と思われる。上記ARMS様マウスの脳内変化をこれまでいろいろ調べてきたが、興味深いのは、前頭葉でのGABA系関連遺伝子およびオリゴデンドロサイト系遺伝子の網羅的発現低下であった。これは、統合失調症死後脳での所見と一致する。平成24年度は、さらに上流の分子メカニズムを解明すべく、発現低下を示した遺伝子の発現制御を行う転写因子の発現を検討した。結果は、それらの遺伝子の発現も低下していた。そこで、当該転写因子をコードする各遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化状態をバイサルファイト法で定量した。結果は、遺伝子発現低下とDNAメチル化の増加が相関しており、栄養という環境要因が転写因子遺伝子にエピジェネティクな変化を引き起こしたことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス前頭葉でのGABA系関連遺伝子およびオリゴデンドロサイト系遺伝子の網羅的発現低下が観察されたため、当初はセルソーターを用いてGABA含有細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞を分離して、細胞種毎に詳細に遺伝子発現変化、およびDNAメチル化変動を調べる予定であったが、必須脂肪酸不足食餌を使い切ってしまって無くなってしまった。新に作成を依頼しようとしたが、以前注文した業者がもう食餌を作るのをやめてしまったので、新たな食餌の調達が不可能になり、計画していた実験の一部が実行できなくなり、このことは残念であった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得たデータを詳細に検討し、整理して論理的な解釈を導き、論文化することに注力する。また、得られたデータよりパテント申請できるものを検討する。
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