研究概要 |
昨年度までの研究から、マウスにおいて脳発達期の必須脂肪酸という栄養素の不足は、ヒトに置き換えた場合、神経薬理行動、脳画像、遺伝子発現の面で精神疾患脆弱性基盤形成の1つの因子となり得る、という知見を得てきた。さらに、マウス前頭葉でのオリゴデンドロサイト系遺伝子の網羅的発現低下の上流の分子メカニズムを解明すべく、発現低下を示した遺伝子の発現制御を担う転写因子(TF-AおよびTF-B)の発現を検討した結果、それらの遺伝子の発現も低下していた。そこで、当該転写因子をコードする各遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化状態をバイサルファイト法で定量したところ、遺伝子発現低下とDNAメチル化の増加が相関していた。平成25年度は、これまでin vitroで得られてきた知見をin vitroで掘り下げる実験を行った。具体的には、 1、OLP6というラットオリゴデンドロサイト由来の培養細胞を、TF-AおよびTF-Bのリガンド共に培養し、リガンドの量、および培養時間を振った。結果は、TF-AおよびTF-Bのリガンド添加によって、Olig2, Cldn11, Mal, Mbp-longといったオリゴ系の遺伝子発現の増加が観察された。 2、免疫組織化学的方法によって、TF-AおよびTF-BがOlig2陽性細胞(オリゴデンドロサイトの前駆細胞)に共発現していることが確かめられた。 よって、一連の現象の間には未だブラックボックスがあるが、転写因子作動薬は、精神病の顕在発症を抑制することができるかも知れない。 本研究は、妊娠中の母親が一時的に飢饉にさらされると子供の将来の統合失調症発症率が2倍に高まる(Susser et al, 1992; St Clair et al, 2005)という疫学データを、動物実験からサポートし、その分子メカニズムの一端をエピジェネティクスの観点から明らかにしたと考える。
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