研究課題/領域番号 |
23251004
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 勇 京都大学, 東南アジア研究所, 名誉教授 (80093334)
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研究分担者 |
阿部 健一 総合地球環境学研究所, 研究高度化支援センター, 教授 (80222644)
竹田 晋也 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (90212026)
市川 昌広 高知大学, 自然科学系, 教授 (80390706)
赤嶺 淳 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (90336701)
落合 雪野 鹿児島大学, 総合研究博物館, 准教授 (50347077)
平田 昌弘 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (30396337)
長津 一史 東洋大学, 社会学部, 准教授 (20324676)
鈴木 伸二 近畿大学, 社会学部, 講師 (10423013)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生態資源 / エコポリティクス / 地域間比較 / ユーラシア大陸周辺域 / アジア海域 / エコツーリズム / ワシントン条約 / 港市 |
研究概要 |
本研究の目的は、ユーラシア大陸辺境域の「生態資源」に焦点を当て、1)生態資源をとりまく変容過程を明らかにし、2)生態資源への国家規制と住民の対応を調査し、小地域の投げかける新たな方向性を見いだし、合わせて、3)生態の全く異なる二地域における共通性を探ることによって両地域の実像を浮かび上がらせることにある。現地調査としては、フィリピンのビコールやビサヤにおいてジンベイザメについての実態調査、および、鯨類(cetacean)と板鰓類魚類(elasmobranch)といった稀少資源の利用と保全の両立の可能性を検討するために同地域でグリーンツーリズムについても調査を実施した。これらの調査研究は、「食」の生産から消費までを俯瞰し、生活様式・生活環境の変遷をたどりながら、生態資源や現代社会を複眼的にとらえる試みでもある。また、東ジャワ州カンゲアン諸島サプカンにても、海産資源、特にウミガメ(タイマイ、アオウミガメ)に焦点を当て、その利用形態の変遷を調査し、政治・経済構造と比較しつつ分析をおこなった。一方、陸域における稀少生態資源については、ラオスのルアンパバーン市とヴィエンチャン市での染織工房技術と綿織物生産者の現状、エチオピア北部アファール州での異常稀少に伴う牧畜民伝統技術と生業の崩壊、マレーシア・サラワク州での都市移住者の出身村での資源管理・利用などについて調査を実施した。稀少生態資源についての情報収集は、H24年度は主に国際会議に出席することによって実施した。パナマで7月に開催された国際捕鯨委員会会議(IWC64)に参加し、捕鯨に関するエコポリティクスの動向を探った。更に、バンコクで2013年3月に開催された第16回ワシントン条約締約国会議CITES CoP16に参加し、稀少資源保全の世界的枠組みについて最新情報を収集した。沈香をめぐる中国を中心にした動きが活発になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに、研究グループのそれぞれの地域で現地調査を実施し、生態資源の現状について詳細な調査をおこなってきた。主な調査地域と研究内容は、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどの島嶼域における海産資源、ラオスやタイなどの東南アジア陸域における林産資源、ユーラシア大陸内陸域のモンゴルにおける畜産資源などである。それぞれ地域で生態資源の対象となる物質文化は異なるものの、稀少資源の高価格化と枯渇、密猟、国際商人(特に中国商人)の影響、国際規制・国家規制と現地の人びとの生活実情からの乖離など、地域を越えた共通した傾向が確認された。 また、ワシントン条約締約国会議(CITES)や国際捕鯨委員会(IWC64)などの生態資源に関する国際会議に出席して、生態資源の保全の世界的枠組みについての最新情報を収集すると共に、ロンドン国立公文書館などで旧領主国資料に当って、国家規制と生態資源の変貌についての情報を蒐集した。 これまでの2年間では、現地調査に主眼が置かれていたため、地域間での生態資源の利用と保全についての比較検討は未だ十分におこなえていない。ユーラシア大陸周辺域での継続調査、生態資源の地域間比較、そして、国際会議などでの最新情報を基にした新しい生態資源のエコポリティクス論の展開が、今後の課題である。 科研採択期間のちょうど中間地点ではあるが、我々の研究グループから優れた業績が出始めている。山田の『世界の森大図鑑』(新樹社)、平田の『ユーラシア乳文化論』(岩波書店)、赤嶺の『ナマコを歩く』(新泉社、日・英・中国語)、赤嶺編の『グローバル社会を歩く―関わりの人間文化学』(新泉社)、市川共編著『ボルネオの里の環境学』(昭和堂)などである。これによって、これまでのフィールドワークの結果がかなりの部分集約され、今後の見通しが明るくなった。2年間の達成度としては予想以上であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究グループでは、中国の動向に特に注目している。中国の急速な経済発展と共に、東南アジアの島嶼域での海産資源や陸域での農産・畜産資源の利用と保存の在り方は、中国の政治・経済の構造と動向に益々左右されるようになってきているからである。この中国を中心とした秩序の在り方は、東南アジアに限らず、今や中央アジアやアフリカまでも及ぶ。その一方で、ユーラシア大陸辺境域では独自のシステムを保持し続け、地域固有の生態資源を現地の人びとと共存させ、生活の中で守り続けている地域も残されている。そんな伝統的文化を保持し続ける社会にも、グローバリゼーションの影響は及び、変貌を迫られているのが現状である。巨大経済圏と国家規制の枠組みの中で、地域固有の生態資源は急速に喪失している。 この緊迫した生態資源の現状下で、我々は生態資源をつぶさに観察し、記録に留めることを急いでいる。そして、世界経済と国家規制の動向を踏まえた上で、生態資源の今後の利用の在り方や保全の方法について検討している。今後は、これまでに未だ調査していない地域を中心に、引き続きユーラシア大陸辺境域の生態資源に焦点を当てて調査研究を進める。具体的には、インドネシアのハルマラ島周辺、これからの急激な経済発展による生態資源の保全の在り方が危惧されるミャンマー、旧ソ連地域諸国、特に、トルクメニスタン、パミール高原、EU経済圏維持のために犠牲になりつつある周辺国のブルガリアやルーマニアなどである。 これまで我々が調査してきた地域に加え、これらの周辺地域をも今後調査し、その上で、海域と陸域という生態資源の全く異なる二地域における利用と保全についての共通性を探ることによって、ユーラシア大陸辺境域の生態資源の実像を浮かび上がらせていく。
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