研究課題/領域番号 |
23251014
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大貫 静夫 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (70169184)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 考古学 / ロシア極東 / 環日本海 |
研究概要 |
2012年度の調査ではウディリ湖周辺の遺跡群の調査をおこなった。ウディリ湖はウフタ水路によりアムール川と接続する。ウディリ湖の湖畔には新石器時代から古金属器時代までの竪穴の凹みが多数存在し、遺跡群を形成するが、その中、ザリフヌィムィス遺跡とゴールイムィス6遺跡の調査をおこなった。 ザリフヌィムィス遺跡は過去にシェフコムードが踏査をしており、新石器時代前期に属する可能性のある土器片が採集されている。石斧や石核、土器類など少量の遺物が検出されたものの、まとまったコンプレックスは確認できなかった。ゴールイムィス6遺跡はウディリ湖畔の低位段丘面において竪穴の凹みが群集する遺跡である。バリシャヤブフタ式期の竪穴1基を調査した。炉は焼土面が少なくとも2面確実に確認でき、2度の作り替えが想定できる。住居に確実に伴う遺物として、バリシャヤブフタ式土器、石斧、石鏃などがある。 資料の整理、分析 2013年1月にハバロフスク地方郷土誌博物館にておこなった。年度末にサハリンでの資料調査を予定していたが、受入側の都合により、2014年度に繰り越し、5月におこなった。 ウディリ湖畔で二つの遺跡を調査した結果、バリシャヤブフタ式期の住居が検出された。これにより、類例の少なかったバリシャヤブフタ文化期の好資料を得ることができた。バリシャヤブフタ式は、サハリン中部のザパトナヤ10式とほぼ同一の型式内容であり、アムール河口部周辺とサハリン中部の間での交渉は確実に新石器時代後半から起こっている。環日本海北回廊地域における型式問交渉の継続性や断続性を考えるうえで、堅実な資料の蓄積が最も重要であり、本遺跡の調査はその一助となろう。バリシャヤブフタ式とザパトナヤ10式の型式学的な距離を明らかにすることにより、オホーツク文化への移行過程を考える上で重要な資料をえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度のヤミフタ遺跡の調査により、今まで空白であったアムール川下流域における石刃鏃石器群出現直前の段階を明らかにすることができた。これによって、先行するオシポフカ文化から、どのようにして石刃鏃石器群を伴う、後続するコンドン文化が出てくるのかを土器、石器の両面からかなり理解できるようになった。このことは、縄文時代早期に日本海北回廊を通じて、北海道東部に出現する石刃鏃石器群の出現過程を理解する上で重要な資料を得たことを意味する。 また、アムール川河口域でのバリシャヤ・ブフタ文化の広がりを確認したことで、やはり、北回廊を通じて北海道東部にその後出現するオホーツク文化の形成過程を考える際の大陸側の比較資料として重要な資料を得ることができた。 さらに、サハリンでの資料調査をおこなったことで、環日本海北回廊の大陸側の起点であるアムール川河口域と北海道をつなぐ中間地域の理解が進みつつある。これらの資料を統合することで、以前よりはるかに具体的な資料に基づく知見を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの二年間で環日本海北回廊の大陸側の起点であるアムール川河口域に関する理解が進んでいる。 さらに環日本海北回廊の実態解明を進めるには、これまで通り、アムール川河口域での研究を継続し、資料の追加をするとともに、今後は北回廊の中間地点である、サハリン島の研究にも力を入れることで研究課題の一層の解明に取り組むことにする。 幸い、サハリン島の新石器時代はサハリン国立大学の研究者が研究を進めており、彼らと共同して、新石器時代でも古い段階である石刃鏃石器群を伴う段階の遺跡を調査することで、北回廊の空白を埋めていく予定である。
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