研究課題/領域番号 |
23251016
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長谷川 奏 早稲田大学, 総合研究機構, 上級研究員 (80318831)
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研究分担者 |
吉村 作治 早稲田大学, 国際教養学術院, 名誉教授 (80201052)
近藤 二郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70186849)
春山 成子 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10267461)
惠多谷 雅弘 東海大学, 付置研究所, その他 (60398758)
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キーワード | エジプト / 西方デルタ / 潟湖 / 地質情報 / 衛星データ |
研究概要 |
本研究は、初期文明とヘレニズム文明の知の連続性と断層の解明を課題とする。ファラオ文明という巨大な前身伝統に対し、後発の政治権力として登場したヘレニズムが、地域権力を掌握していった際の都市・村落の連結空間に着目し、ヘレニズム文明の知が、海洋沿岸に分布する潟湖の連環生活圏を、地域的な経済ネットワークによって<面的>に支えた可能性を視座とする。ナイルの緑地帯とは異なる塩基性土壌の地に対し、脆弱な生業複合で取り結んだと思われる環境・文化システムを想定し、空間・地質情報の総合から検証することを研究のテーマとする。 平成23年度は、まず現地調査の実施に先立って、研究対象地域における遺跡テリトリー形成のモデルを作成し、その批判を通してより密度の高い把握に至るべく以下の内容で研究を進めた。 衛星データ分析班は、細部検討対象地区において、QuickBird画像やCorona画像を用いて調査を行った。研究対象の湖(イドゥク湖)周辺に遺跡が分布している同湖南側地点を中心にして、グランド・トゥルースを実施し、特にKom al-Dabaa遺跡周辺の古砂丘形成層を手がかりにして、古地形の復元考察を行った。 地質情報分析班は、イドゥク湖南側において、計3箇所の調査地点を設け、カイロ大学理学部地質学研究室と共同して、地質ボーリング調査(平成23年度繰り越し分による)を行った。サンプル土壌は現在日本に持ち帰り分析途上であるが、解析結果は、第4紀以降の湖面範囲や湖環境の変遷を明らかにするであろう。 考古学調査班は、衛星データ分析班と合同して、イドゥク湖周辺に分布する諸遺跡(Kom al-Gharaf遺跡、Kom al-Ahmar遺跡、Kom al-Ust遺跡等)内に分布する遺構(住居、工房、墓地等)の把握を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エジプトでは、平成23年1月の政治改革(あるいは「アラブの春」)以後の政情不安定化を受けて、現地調査が一時困難になったが(繰越金による一部調査の延期)、以後1年半を経過して、治安も回復されてきたことを受けて、平成24年9月には、カイロ大学理学部地質学教室との連携のもと、地質ボーリング調査が実施された。サンプル土壌は船便によってエジプトから日本に運ばれ、現在は三重大学生物資源研究科において、土壌分析が進められている。このような地質調査の実行によって、当初計画されていたイドゥク湖の古環境研究は順調に達成されていく見込みとなった。一方、衛星データ分析班においても、考古学調査班との共同で、湖周辺の遺跡が形成された古地形を判読する試みが進行しており、これも当初計画した流れで進んでおり、概ね順調に経過している。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象地区(イドゥク湖)周辺における第4紀以降の環境調査は、上記の地質調査が無事発進したことによって、これで大枠で環境の推移を追うことができる見込みが得られた。今後は特に歴史的な標的としているヘレニズム時代周辺の環境調査にどのように繋げていくかが課題となるため、フランス考古学研究所がマリユート湖周辺で行った環境調査研究との接点を見出して、マリユート湖~アブキール湖~イドゥク湖という西方デルタ一帯の環境変動を捉えて行きたい。 衛星データ班は、特に遺跡形成に関る古砂丘の復元(多くは開発によって削平されてしまいっている)を続けていき、遺跡形成時の原風景の再構築を行うこととなる。 考古学班は、西方デルタ一帯のヘレニズム時代都市・村落の構造のあり方を探っていくこととなる。さらに、イドゥク湖周辺に分布する諸遺跡(Kom al-Gharaf遺跡、Kom al-Ahmar遺跡、Kom al-Ust遺跡等)には、日乾煉瓦・焼成煉瓦を複合的に組み合わせた住居・墓地や貯水施設・ワイン醸造のための工房などの施設、土器・ガラス生産のための工房などが設けられていた可能性がある。これらが古砂丘堆積を利用しながら、どのような可能性と規制を背景に、生活空間を作り上げていったかを究明していく必要があり、この点に関しては、衛星データ班と共同で遺構の地表面分布のあり方を分析し、これに湖周辺に住む人々の生活の知を人類学的な調査から読み取る手法を併用して、探っていきたい。
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