研究課題/領域番号 |
23251016
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長谷川 奏 早稲田大学, 総合研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (80318831)
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研究分担者 |
春山 成子 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10267461)
惠多谷 雅弘 東海大学, 付置研究所, その他 (60398758)
近藤 二郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70186849)
吉村 作治 早稲田大学, 国際教養学術院, 名誉教授 (80201052)
津村 宏臣 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (40376934)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エジプト / 西方デルタ / 潟湖 / ヘレニズム / 環境復元 / 遺跡テリトリー |
研究実績の概要 |
本研究は、エジプト西方デルタのイドゥク湖南域において、空間情報と地質情報を総合しながら歴史環境を復元し、遺跡の立地条件を考察することをめざす。研究対象地域は、ヘレニズム政権の拠点アレクサンドリアの後背地にあたり、同政権の初期の最も重要な戦略拠点であった。当該地域には、前6000年頃の海進に由来する潟湖が分布しているが、近代以降湖面の縮減と共に耕地の開発が進んだため、水辺環境の復元が課題となる。 1)画像情報研究班は、多衛星データの画像特徴量から,丘陵状遺跡と同等の画像特徴量をもった地点を抽出した資料を準備した。1960年代に撮影されたCORONA画像によっては、土地開発による環境の変貌を探った。現地の果樹園内では、現在も削平されず残存する砂丘丘陵上の遺構を確認し、砂丘丘陵が遺跡テリトリーとなる可能性を見出した。 2)地誌情報研究班は、1920年代の測量局作成地図をもとに標高1.0mまで冠水した環境を描き、ナイル氾濫時にはこの一帯にほぼ南北方向に連なる砂丘列が出現し水域に取り囲まれる独特の景観を復元した。これらの砂丘列の丘陵頂部(標高2~6m)は、デルタ地域のシルト村落と同様に経済活動の拠点となっていた可能性が提示された。 3)地質情報研究班は、2012年に深度15mほどの試掘を行った試料の分析を日本国内で進め、堆積物の底部に近い-14.5m地点(5259±24(BP))の珪藻化石からは、干潟~沼沢湿地環境が推定された。また花粉分析では、樹木花粉ではコナラ属が、草本花粉ではガマ属と共に、カヤツリグサ科(実態はパピルスか)が最も多く検出され、樹木がまばらで、草本類主体の植生が広がり、ガマ属が生育した水域が推測された。 さらに将来的な発掘調査によってこれまでの仮説を検証するために、研究対象地域の一角に遺跡を選定し(Kom al-Diba’遺跡)、50cm標高ごとの微地形測量を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は当初計画した予定が当初の予想以上に順調に遂行されていると判断される。まず空間情報の分析に関しては、衛星データと歴史地図の取得から情報分析が開始され、さまざまな仮説が現地におけるグランド・トゥルースにより検証された。近代以降の開発でその殆どが失われたと考えられていた一角から、砂丘丘陵と古代遺構と推測された一部が発見されたことは、大きな成果として位置づけられる。地質情報の分析では、現地研究機関の協力により試掘が実行できたことが、大きな研究成果を齎す基盤となった。地質試料はエジプトから日本に運ばれ、現在さまざまな深度において、珪藻分析・花粉分析(年代はC14分析)等を通じての環境復元が進行している。研究対象地域の水辺環境復元が無事発進したことによって、ヘレニズム時代における環境利用と生活実態の解明をめざす発掘調査の準備も順調に進められることとなり、現在発掘対象遺跡(Kom al-Diba'遺跡)の微地形測量までが完了している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、空間情報と地質情報の総合から研究対象地域の環境変動を探る研究を継続すると共に、ヘレニズム時代における環境利用と生活実態の解明をめざすための調査研究の双方の推進を手掛けていきたい。具体的には、現段階で検証対象(Kom al-Diba’遺跡)の遺跡選定が終わり、微地形測量も完了したことから、次段階として地表面探査(GPR探査、磁気探査、電磁誘導探査等の機材を用いた物理探査)を行い、地表面に被覆されている遺構の把握を行う。これによって、環境復元と遺跡の発掘による実証的な検証の双方によって、古代の経済活動とその歴史的背景を考察することが可能となる。本研究は、現地研究機関と多角的に提携しながら進めているが、今後もこの研究ネットワークを維持していくこととする。なお、2011年以後の政治的不安定さによって、現地における調査が困難になる場合には、データ分析と比較調査の遂行によって、代替の調査が進められるような対応を準備しておきたい。
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