研究課題/領域番号 |
23251024
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
伊藤 亜人 早稲田大学, アジア研究機構, 教授 (50012464)
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研究分担者 |
板垣 竜太 同志社大學, 社会学部, 准教授 (60361549)
李 仁子 東北大學, 教育学研究科, 准教授 (80322981)
松谷 基和 早稲田大學, アジア研究機構, 助手 (20548234)
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キーワード | 社会主義社会 / 非公式社会 / 日常世界 / 参加型研究(Participatory Research) / 脱北者(北朝鮮難民) / 人道保障(Human Security) / 民族誌 / ライフヒストリー |
研究概要 |
北朝鮮社会の研究において、従来の研究が国家の機構と政策を枠組みとした政治・経済面に重点を置いてきたのに対して、本研究では地域や職場・組織における社会生活、日常の生活文化、その変容など、社会・文化全般に留意する人類学の総体的アプローチを踏まえる点に特色がある。国家による社会主義制度が機能不全に陥り、制度的な生活保障が滞っている現状の把握と並行して、その公的な規制の下での民衆の生活実態に焦点を置く方針であるが、それを可能とするのは、北朝鮮からの大量の難民(脱北者)がもたらす具体的な情報であり、方法論としては、開発研究において欠かせない当事者の主体的参画を促す参加型研究(Participatory Research)である。具体的にはインタビュー調査と当事者自身の執筆による生活記録を叩き台としたライフヒストリーと民族誌的記述・分析の手法である。 研究プロジェクト全般について三名(機関)から助言・支援を継続的に得ており、集約的インタビューと具体的研究計画では二名の脱北者から緊密な協力を得ており、それ以外の脱北者七名に対しては、面談と手記執筆を通して持続的な協力を得られ、それによって得られた情報と記述の整理にあたっている。 その中で、地方都市の職場(企業所)における組織生活と家庭の副業活動、地方の協同農場における集団農業と私有地農業、軍関連の職場生活などについて、公式の原則と実際の乖離と補完的な実態について、忠誠の証しとしての物とサーヴィスの上納、恩恵としての下賜、贈物、賄賂・横領・窃盗・搾取などの常態化した非合法的・戦略的行動、副業による生産と交易活動などに活路を求める生活実態が、具体的事例によって明らかとなりつつある。 このほか、地方小都市に対する歴史民族誌的な事例研究、韓国および日本に於ける脱北者の社会状況、中朝国境地帯における北朝鮮からの出稼ぎ活動・非合法居住者および朝鮮族住民との関係についても、脱北者インタビューに拠る事例調査に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
諸機関の紹介により、数度に渡る対話を経て、多くの脱北者が本プロジェクトの趣旨を理解し、研究協力者として積極的に協力する態勢が整っている。こうした対話・究皮協力者としての参加は脱北者にとって新鮮かつ魅力あるものとなり、予測以上の多くの資料(生活記録の執筆)が提供され、その対応に忙殺されている。地域研究の民族誌的な資料の集積・分析がむしろ遅れがちなのに対して、民衆の日常生活について、予想に違わない非公式的・戦略的・適応的な生活実態が明らかとなりつつある。脱北者による積極的参与がさらに拡大すれば、現在の布陣と分担体制に再検討が迫られる可能性もある。脱北者を招いたワークショップも4度実施して、その有効性を確信することができた。
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今後の研究の推進方策 |
脱北者の研究協力者としての参画を深めながら、生活実態について一層具体的な記述・分析を目指し、ワークショップなどの方式を積極的に併用する。資料収集の新たな具体的試みとして、(1)協力者(帰国脱北者)が手がけている、中朝国境地域に於ける北朝鮮からのビザ渡航者に対するワークショップにも直接参与する。(2)北朝鮮における協同農場・地方都市の企業所への訪問と、北朝鮮の研究者との交流も模索している。前者については、その主導者が主要な研究協力者でもあり、本プロジェクトとの緊密化を図ることに同意が得られている。後者については研究分担者(板垣)が現在その折衝にあたっている。ワークショップ、セミナー、シンポジウムにつては、年間合計10回の企画を予定しており、本務の早稲田大学からも支援を得られる見込みである。
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