昨年度までの文献調査および現地調査の結果をもとに、シティ・リージョン(CR)を単位とする空間計画に関する欧州各地域の取り組みを整理したうえで、計画の実効性の面で顕著な成果をあげつつある地域を選定し、詳細な現地調査を行った。具体的には、ノルウエー・ドイツ・イタリア国内の諸地域において、研究者・自治体職員・政治家を含めた幅広い対象に聞き取り調査を行い、計画推進の「枠組み」を収集・分析した。その結果、多くの事例で「対話と意思決定」「地域計画策定」「事業実行」等の領域ごとに組織を分割し、各組織を柔軟に使い分けることで、多様な主体の空間計画への参加を促していた。これは、多主体の協働・協調によって計画の実効性を確保するための試みと見る事ができる。 現地調査においては空間計画の全体的枠組みに加え、重要主題として近年台頭しているナレッジ・シティ (KC)戦略の実践手法を収集した。そのうえで、それら手法の国内への適用可能性を検討する為に、わが国におけるKCの萌芽として、首都圏における自然発生的な知識産業集積の形成実態に着目してその形成要因の把握を行ったうえで、欧州諸地域のKC戦略手法と照らし合わせた。その結果は、首都圏において「都市ブランディング」「都市的アメニティ強化」など、都市魅力の上昇を目標とする手法が有効である一方、「高レベル労働者の獲得」は知識産業の主たる誘引要因とはいえず、KC戦略手法として十分な有効性を持たない事などを示唆するものであった。 また、CRとKCをめぐる計画理論に関しては、ひきつづき資料の翻訳・整理・分析を進めた。そこから得られた知見をもとに、3カ年間にわたるCRとKCの諸事例を整理するための共通の枠組みを設定し、事例毎の特徴を整理して詳細に分析した。その上で、日本における制度的枠組みの導入の可能性について考察を行い、 高流動性社会を前提とする計画理論を構築した。
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