研究課題/領域番号 |
23255005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 博 東京大学, 総合研究博物館, 准教授 (30299177)
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研究分担者 |
大場 秀章 東京大学, 総合研究博物館, 名誉教授 (20004450)
小山 鐵夫 公益財団法人高知県牧野記念財団, 財団理事長, 理事長 (00205535)
藤川 和美 公益財団法人高知県牧野記念財団, 研究部植物研究課, 研究員 (60373536)
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キーワード | ヒマラヤ / 植物相 / 遺伝的多様性 / 種多様性 / 系統分類 |
研究概要 |
本研究は、ヒマラヤ及び周辺地域に生育する植物に関して、多様性の基礎となる植物誌をつくるための調査(インベントリー調査)と特定の植物群に関する解析的調査を進めることを目的とする。 平成23年度は、ミャンマー・チン州のナマタン国立公園でインベントリー調査をおこなった (Fjikawa, Ikeda et al. 2012, 池田 2013)。ナマタン公園内にはビクトリア山 (3050 m) があり、その周辺を中心として調査を行った。ビクトリア山の中腹以上には温帯性森林が発達し、ブナ科 Quercus semecarpifolia やツツジ科 Rhododendron arboreum など、ヒマラヤ地域との共通種が優占していた。低木層や草本層にもヒマラヤと共通あるいは近縁な種が数多く生育していた。 この地域の植物について網羅的に採集するとともに、特筆すべき種に関して、1)バラ科 Potentilla montisvictoriae は、代表者が1993年に標本から記載した種であるが、今回自生地で、形態・生態ともに詳細に観察することができた。2)バラ科Rosa sericea はヒマラヤ産の同種とされるものとやや異なり、むしろ中国産のR. omeiensis との比較が必要と考えられた。3)リンドウ科Canscora diffusa は特殊な花形態を示し、ハチなどの送粉昆虫に対する適応が考えられた。また、ネパールの植物に関する植物誌「ネパール植物誌 第3巻」を刊行した(Watson, Ikeda et al. 2011)。 収集したサンプルは細胞遺伝学的・分子遺伝学的解析に供するとともに、採集したおし葉標本は、東京大学 (TI)、高知県立牧野植物園 (MBK)、ミャンマー森林局に保存すると同時に、重複標本はアメリカやイギリスなど、海外の植物標本室に送付することになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究は、ヒマラヤおよび周辺地域において、インベントリー調査と解析的調査を合わせておこなう予定である。4年間の現地調査として、毎年2ヶ所ほどを選定し、調査をおこなう予定にしている。 平成23年度は、これまで外国人が入国して調査をおこなうことが難しかったミャンマーが、近年の民主化の影響もあり、外国人の入境がしやすくなり調査ができる可能性が高くなったという情報を得て、急遽調査地をミャンマーに変更し、ミャンマーの中でも特にヒマラヤの植物との関係が深い植物が多く生えているナマタン国立公園で現地調査をおこなった。ミャンマーにおける調査は予定通りに進めることができ、おし葉標本、解析用サンプルともにほぼ所期の計画通りに収集することができた。 しかし、予定では平成23年度中にもう一ヶ所の現地調査を考えていたが、それは実現することができなかった。当初の計画では、インド・シッキム地方と中国・雲南省を予定しており、平成23年度はインド・シッキムでの調査を考えていた。ところが、現地調査のカウンターパートとして考えていたインド植物調査局(Botanical Survey of India)との交渉に予定以上の時間がかかり、平成23年度中に調査の許可を得ることが難しいことが判明した。植物の調査は通常は春から秋にかけておこなうのが適当であり、交渉に時間がかかったこともあり、平成23年度内に現地調査を実施することが難しくなった。そこで、補助金の一部について次年度に繰り越しをおこない、次年度の調査を充実させることとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、繰り越した補助金も用いながら、調査の充実を図る必要がある。ひとつの方策として、インベントリー調査に力を入れる現地調査と、解析的研究に力を入れる現地調査のように、調査の性格を明確にした現地調査を実施するのがいいのではないかと思われる。インベントリー調査は、その地域に生育する植物について網羅的に採集することに力を入れることから、同じ場所に長く滞在するよりは、頻繁に移動しながら採集活動を続ける方が効率がよい。一方、解析的研究の場合、ある程度一ヶ所にとどまり、充分なサンプルを収集したり、じっくりと対象の植物を観察したりする方がよい場合が多い。これまではインベントリー調査と解析的調査を同時におこなってきたために、両者とも中途半端な結果となるおそれがあった。 そこで、インベントリー調査に重きを置く調査は、これまで植物相がよく分かっていなかった地域に赴き、比較的広い範囲を移動しながら採集するような調査計画を立てる。一方、解析的調査に重きを置く調査は、これまでにある程度植物相が明らかになっている地域に赴き、対象となる分類群に焦点を当て、充分な時間をかけて調査・観察をおこなうようにしてはどうかと考える。 したがって、次年度の調査計画を立てる場合、インベントリー調査、解析的調査と調査の性格を明確にした行動計画、調査の性格にあった調査メンバーの選定を行うことが望ましい。例えば、インベントリー調査としては、ネパール国内でもほとんど植物調査隊が入ったことのない極西ネパール地域が候補地となるだろう。また、解析的調査の場合、東ネパール・ジャルジャレ地域などはすでに植物相に関する報告書 (Ohba & Akiyama 1992) があり、かなり植物相が分かっていることから、この地域で解析的研究を主体とした現地調査をおこなうのが適当ではないかと考えられる。
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