研究課題/領域番号 |
23255005
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 博 東京大学, 総合研究博物館, 准教授 (30299177)
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研究分担者 |
小山 鐵夫 公益財団法人高知県牧野記念財団, 牧野植物園, 理事長 (00205535)
大場 秀章 東京大学, 総合研究博物館, 名誉教授 (20004450)
藤川 和美 公益財団法人高知県牧野記念財団, 牧野植物園, 研究員 (60373536)
高山 浩司 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (60647478)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | ヒマラヤ / 系統分類 / 遺伝的多様性 / 種多様性 / 植物相 |
研究概要 |
本研究は、ヒマラヤ及び周辺地域に生育する植物に関して、多様性の基礎となる植物誌をつくるための調査(インベントリー調査)と特定の植物群に関する解析的調査を進めることを目的とする。平成25年度は、7月に東ネパール・ジャルジャレヒマール (Jaljale Himal) 地域で、9月に中国雲南省で現地調査をおこなった(池田 2013)。 ジャルジャレヒマールでは、約550点、雲南省では約100点のおし葉標本を作製すると同時に、集団遺伝学的、花粉分析学的、送粉生態学的調査も実施した。インベントリー調査としては、ジャルジャレヒマールに関して、昨年同地で収集した約950点のおし葉標本と合わせ、約1500点のおし葉標本をもとにフロラリストを作成すべく、整理・同定作業を進めているところである。系統分類学的研究としては、バラ科キジムシロ属植物について、これまで収集されたサンプルも含め、系統解析をおこなった (Vatanparast & Ikeda 2013)。また、雌雄異株植物であるキンポウゲ科 Paroxygraphis属について、近縁属も含め系統解析をおこなった(高山・池田 2013)。また、カヤツリグサ科 Carex henryi の命名者名に関する議論をおこなった (Yano et al. 2013)。 解析的研究としては、集団遺伝学的解析のためのサンプルを収集した。特に東ヒマラヤで多様化したと考えられるツツジ科ツツジ属と、サクラソウ科サクラソウ属について、サンプリングをおこなった。また、現在の植生の歴史的変遷を明らかにするため、花粉分析用サンプルを収集した。さらに、送受粉(ポリネーション)に関する資料も収集した。それらの資料については、現在整理・解析中である。 さらに、ヒマラヤの植物の魅力について、多くの人がヒマラヤの植物に興味を持ってくれるよう、一般書に解説記事を書いた(池田 2014a, 2014b)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、東ネパール・ジャルジャレヒマール地域および中国雲南省で現地調査をおこなった。ジャルジャレヒマール地域は、平成24年度も調査を実施した場所であるが、同じ場所を季節を変えて調査することにより、より詳細なフロラをつくることができると考えられる。また、解析的調査に関しても、時期を違えることで異なった材料を用いた調査を実施することができると考えられる。 実際、今回ジャルジャレヒマールで約550点のおし葉標本を採集したが、前回の調査と重複している種はあまり多くはなく、季節を変えることによる効果があったと思われる。また、集団遺伝学的解析、送受粉に関する資料に関しても、昨年とは異なるサンプリングができた。 これまで、すでにいくつかの特筆すべき分類群(キジムシロ属、スゲ属、Paroxygraphis属、Tolypanthes属、Robiquetia属など)については、分類学的あるいは生態学的見地より学会・研究会や専門雑誌等で発表をしているところである。また、「ヒマラヤ植物DNAバンク」構想にもとづき、これまでにほぼすべての採集標本について、その標本から収集したシリカゲル乾燥サンプルを作成している。 しかしながら、まだインベントリー調査にもとづくフロラリストは完成に至っておらず、多くの解析すべきサンプルについても、整理・同定、あるいは処理を進めている段階である。また、「ヒマラヤ植物DNAバンク」についても、サンプルの提供、公表の方法等、手続きに関する議論は進んでおらず、今後実施に向けて詰める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は当計画の最終年度に当たる。したがって、新たな場所における野外調査をおこなうと同時に、とりまとめをおこなう必要がある。 野外調査に関しては、「汎ヒマラヤ地域」の周縁に位置する中国東部およびチベット西部(Mt. Kailash)において調査をおこなうこととする。中国東部は「日華区系」と呼ばれる日本-中国に共通する多くの種を含む地域であるが、一部はヒマラヤ地域の種と類縁を持つと考えられる種も分布する。また、チベット西部はこれまで日本人による調査はほとんどおこなわれていないことから、インベントリー調査をおこなうのに適した場所であると考えられる。そこで、中国東部の現地調査を4月に、チベット西部の調査は7月から8月にかけておこなう予定である。中国東部の現地調査に関しては、杭州師範大学の金 孝鋒 (Jin, Xiao-Feng) 教授に、チベット調査に関しては、中国科学院昆明植物研究所の楊 永平 (Yang, Yong-Ping) 教授に現地調査のカウンターパートとなっていただくことになっている。 とりまとめに関しては、これまでに採集した標本について同定結果をデータベース化し、リストを出版するとともに、インターネットで公開する予定である。また、収集した解析用サンプルに関しては、速やかに解析を進め、学会や専門雑誌での公表を図る。 さらに、この計画の集大成として、学会等での研究集会、あるいはシンポジウムの開催を企画する。ヒマラヤ-チベット高原の地殻上昇に伴う植物の種分化と分布の変遷をテーマに、この研究に参画した研究者はもとより、国内外の同地域での研究を続けている研究者を呼んで講演をしてもらう。講演会は一般の方にも無料で解放する予定である。
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