研究分担者 |
舟橋 和夫 龍谷大学, 社会学部, 教授 (80081173)
竹中 千里 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 教授 (40240808)
土田 浩治 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00252122)
竹田 晋也 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (90212026)
野中 健一 立教大学, 文学部, 教授 (20241284)
|
研究概要 |
東北タイの中央部にあるコンケン市近郊の典型的な天水田農村において,農家世帯にタイする聞き取り調査から,シロアリが村人の食用および家禽養魚の餌用として伝統的に利用されていること,シロアリ塚が作物栽培用地ならびに塚の土壌が野菜栽培の肥料として利用されていることがわかった.現在のシロアリ塚の位置をGPSを用いて測定すると共に,距離計等により大きさを計測したところ,ラオスの塚よりも概して大きいことがわかった.塚から採取したシロアリは9種を同定することができたが,種と塚の大きさには一定の関係が見出せなかった.塚土壌の成分分析の結果,塚の周りの土壌より明らかに養分量が多く,このことが肥料としての利用の根拠であることが明らかとなった.コンケン県下の多くの村での聞き取り調査の結果,近年需要の増大したセルリー栽培のためにシロアリ塚が消費され,すでに消滅した農村も多く,遠方の農村から調達するための塚採土ビジネスネットワークが発達しつつあることがわかった.上記と同一の農村において水田内および水田畦畔の樹木の資源的意義を調査したところ,商品作物となるパルプ材としてのユーカリ,果樹としてのマンゴーが原植生のフタバガキ科樹種よりも大量に植栽されてきていることがわかった.日射量の測定の結果,樹冠下のイネに対しマンゴーは著しく遮光程度が高く,ユーカリは低かった.マンゴーの下のイネの葉面積指数は樹冠外より高まり,ユーカリでは同等か低下していた.マンゴー樹冠下のイネは倒伏し,樹冠外の1割程度の収量にとどまった.農家は経験的にこの事象を認識しており,マンゴーの商品価値に自給用の稲作の米生産よりも高い優先度を与えていることが明らかとなった. ラオス中部の天水田農村において水田及び森林内のシロアリ塚分布を観察したところ,森林内の分布密度が非常に高いことが確認された.またシロアリの民俗分類から,水田と森林内の種構成が異なることが推定された.乾季に観察された牛と水牛の行動ルートは集落-刈り取り後水田-森林-河川-池沼を複雑に網羅しており,採餌と排泄行動がこれらの生態系を養分的に関連づけていることが推定された.ラオス北部の焼畑農村では畑内に多数のシロアリ塚が確認され,また焼け残りの枝類の分解にシロアリが貢献していることが観察された.以上の結果から生物資源の活用が農業生産に調和的に貢献できる可能性が確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シロアリの活動,牛や水牛の活動が活発な雨季前期に,予算が計画の7割しか供給されないことを考慮して調査期間や調査人数を制限したことにより,これらの活動の継続観察,森林内資源観察や気象観測の実施ができなかった.また,タイの農村で雨季後半に発生した洪水の為,樹木がイネの収量に及ぼす影響の測定が充分ではなく,更にシロアリ塚の水没によって体積追跡調査が不可能となった.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題とその方策として, ・東北タイの天水田農村における,生物資源利用,水田内樹木によるイネへの影響の継続反復調査を行い,データを蓄積. ・ラオスの天水田農村において,生物資源利用,牛,水牛の行動調査の展開.生態条件の異なる水田と森林内のシロアリ塚の特性の把握しデータを蓄積. ・ラオスの焼畑農村において,焼畑農業におけるシロアリを中心とした生物資源利用を探索的に調査. ・ラオス,タイ,カンボジアにおける水田内樹木の衛星画像を用いた把握の広域化. ・研究体制強化の為に,森林環境科学の専門家,植物昆虫共進化生態学の専門家を新たにメンバーとして加える.
|