研究概要 |
アルゴリズムの研究分野では,従来から作業領域のサイズと計算時間の関係について様々な角度から研究が行われてきた.ディスクに代表される外部記憶装置とのデータ転送回数に注目したアルゴリズム設計法や,キャッシュのサイズを知らなくてもキャッシュを効果的に利用できるアルゴリズム(Cache Oblivious Algorithm)などが研究されてきた.また,ネットワーク時代のオンラインデータ処理を対象としたストリーム・アルゴリズムの研究も盛んに行われている. このように,メモリと計算時間の関係は常にアルゴリズム研究における中心的な関心事であった.本研究では,現在の計算環境を反映した新たな省メモリ計算モデル上で,効率のよいアルゴリズムを開発するための一般的なアルゴリズム設計技法の開発を行った.本研究では次の目標に向けて研究を行った. 1.省メモリ・アルゴリズム設計技法の開発と個別問題への応用. これに関しては,新たに省メモリのデータ構造の概念を考案し,多角形内の最短経路問題に応用することができた. 2.画像関連および計算幾何学の諸問題に対する省メモリ・アルゴリズムの開発. 画像に関しては,従来からの定数作業領域アルゴリズムに加えて,入力サイズの平方根程度のメモリを用いるタイプの省メモリアルゴリズムで高速なものを開発することに成功し,現在国際会議への投稿を準備している段階である. 3.メモリ量に敏感なアルゴリズムの設計原理の開発. これまでに開発したアルゴリズムはメモリ量を指定していたが,実行時に利用可能なメモリを最大限に利用する新たなアルゴリズムの開発に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特別に大きな成果が得られたわけではないが,研究計画書に記載した通りに順調に研究が進行している.特に,2011年11月にドイツの国際ワークショップ施設で泊まり込みで省メモリアルゴリズム開発に関する未解決問題ワークショップで世界中から研究者が集まって(全部で16名)活発な議論の末に一定の研究成果を出せたことは有意義であった.特に,その成果の一部が2012年3月の国際会議で発表した.
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今後の研究の推進方策 |
理論面の研究は当然行うが,これと並行に実際的な応用についても展開する予定である.特に,スキャナへの組み込みソフトを考えたとき,入力サイズの平方根程度の作業領域でどれだけの仕事ができるかが求められている.予備的な研究で,2値画像化した上で,各連結成分を取り囲む長方形を出力するアルゴリズムの開発に成功したので,これを実際にプログラム化して,計算機実験によりその性能を確かめたい.また,理論面では,省メモリアルゴリズムの計算複雑度の下界についても検討したい.
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