研究概要 |
本研究の目的は,ディジタル表現された音信号そのものに,生理的・知覚的な聴覚特性を考慮した位相情報操作により様々な情報を知覚されないように隠す,マルチメディア情報ハイディングの基盤技術を確立することである.提案技術に要求される条件は,知覚不可能性,秘匿性,頑健性を満たすことである.この技術が確立されれば,埋め込みの付加価値情報の種類によって,それぞれ電子音響透かし,電子音響指紋・情報改ざん検出,ステガノグラフィ等に応用可能である. 本研究では,次の5つの課題に取り組む.1.蝸牛遅延に対応する位相の時間変化と検知閾の関係の調査,2.片耳・両耳受聴における蝸牛遅延に対応する位相の時間変化とその知覚の検討,ならびに両耳間での位相変化の同期・非同期と検知閾の関係の調査,3.これらの知覚研究の成果に基づいた情報ハイディングのための群遅延制御法の確立,4.音信号へのディジタル情報の埋め込み・検出に関する総合評価ならびに埋め込み情報量の調査,5.応用展開を行なう. 平成23年度は,課題1,3,5にポイントを絞り,「群遅延操作を可能とするモデル構築」と「知覚不可能な位相特性の再調査」を行った.本研究では,蝸牛遅延特性という位相特性を利用した知覚不可能な電子音響透かしの処理体系が既に完成している.現在までにわかっていることは,2種類の蝸牛遅延を原音にPSK(位相偏移変調)で情報を埋め込んでも検知されないということである.しかし,埋め込み(変調)方式の多様性を考えると,群遅延の変動幅や周期的な時間変動といった,位相の時間変化とそれに対する知覚特性(検知閾)の関係が不明である.そこで,これらの位相特性に関する知覚不可能性について網羅的に検討を行った.次に,この結果に基づき,多様な群遅延操作を可能とする位相制御モデルならびに検出方法を提案した.最後に課題5に関して,音声の改ざん検出の可能性について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付時の計画では,課題1と3に絞って取り組んでいたが,順調に研究が進み,一応用例として課題5にも取り組み,成果(論文と特許出願)を出すことができたため.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,平成23年度の成果に基づき,課題2~4にポイントを絞り,片耳・両耳受聴における蝸牛遅延に対応した位相特性の検討ならびに両耳間での位相変化の同期・非同期と検知閾の関係の調査を行う.これまでに,片耳受聴において2種類の蝸牛遅延を原音に位相偏移変調で情報を埋め込んでも検知されないことはわかっている.しかし,埋め込み(変調)方式の多様性を考えると,群遅延の変動幅や周期的な時間変動といった,位相の時間変化とそれに対する知覚特性(検知閾)の関係が不明である.また,これらの点に関する両耳間での位相変化の同期・非同期と検知閾の関係についても不明である.そこで,これらの位相特性に関する知覚不可能性について網羅的に検討を行い,知覚実験にて実証する.次に,この知覚実験の結果に基づき,多様な群遅延操作を可能とする位相制御モデルを構築する.最後に,埋め込み・検出に関する総合評価を行い,埋め込み情報量について調査する.
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