研究課題/領域番号 |
23300071
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鏑木 時彦 九州大学, 大学院・芸術工学研究院, 准教授 (30325568)
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研究分担者 |
元木 邦俊 北海学園大学, 工学部, 教授 (80219980)
松崎 博季 北海道工業大学, 創生工学部, 准教授 (60305901)
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 准教授 (00261389)
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キーワード | 音声 / 音声生成 / 発声 / 病理発声 / 声帯 / 声道 / 音響解析 / 非線形モデル |
研究概要 |
病理発声における声帯の不規則振動の解析のため、ハイスピードカメラで撮影されたビデオデータよりキモグラム、ならびに高速グロットグラムを作成し、振動様態の可視化を行った。その結果、左右の声帯が同位相、逆位相の振動を繰り返す、一種のモードスイッチング現象が観察された。声帯振動は呼気の流体力をエネルギー源とする自励振動であり、自然に発生する自励振動において、このようなスイッチング現象が生じること自体がきわめて特殊である。この特異的な振動現象を理解するため、非線形振動子の結合系における「2つの周期解のスイッチング現象」を参考に、ダイナミクスの検討を行った。今後は、実際の声帯の物理的機構に即したメカニズム解明を行う予定である。また、発声中の声帯振動の観測法に関して、二つの内視鏡カメラを用いて異なる角度から声帯振動の同時撮影を行い、ステレオマッチング法により声帯の3次元動態の復元を試みた。一名の被験者の通常の発声条件における声帯の3次元ダイナミクスを復元し、上唇下唇の位相差などの動的な特徴を捉えることができることを示した。 音声発声時の声道音響解析の高精度化に関しては、音場の時間的な推移を時間領域差分法(FDTD法)により可視化した。平面波及び高次モードを含む音場が概ね数msで定常状態に至り、音源付近の大きな振幅変化が局所的に存在して空間を伝搬しないエバネッセントモードにより表現される様子を示すことができた。また、声道壁を伝わるなどして口唇以外から放射される音声の特徴についても検討を行った。小型マイクロホンを直線アレイ状に配置し、受音した音圧傾度から頸部皮膚近傍の粒子速度を求めた。今後の数値シミュレーションや物理モデル作成のための形状データとして、MRI装置により定常母音および連続母音発話時のMRIデータを収集した。母音発話MRI画像データから半自動的に取得した声道形状の音響特性を、3次元のGPGPU-FDTD法で計算するシミュレータを開発した。本シミュレータは計算しながら即時に計算結果を可視化できるのみならず、インタラクティブに参照点を変更することも可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音声の生成過程における非線形の要因として、喉頭の音源部と声道の音響フィルタとの相互作用に着目し、その相互作用の効果について定量的な知見を得ることができた。また、病理音声における不規則的な声帯振動について、具体的なデータを立脚点としてそのメカニズム解明に向けた検討が開始された。声帯振動の観測法、声道音響特性の解析法についても、順調に研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
病理的発声における不規則的な声帯振動のメカニズムを解明するには、粘弾性的な運動を行う声帯の連続体モデルと、声帯間を通過する呼気流の解析法を確立することが不可欠であり、次年度は特にこれらの課題に対して重点的に取り組む。呼気流の解析に関しては、すでに2次元の境界層解析とポテンシャル流解析を組み合わせた、ハイブリッド法の目処がたちつつある。声帯の弾性体モデルに関しては、線形な2次元、もしくは3次元運動方程式を粒子法に基づいて数値解析する手法を検討する予定である。
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