研究課題/領域番号 |
23300071
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鏑木 時彦 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (30325568)
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研究分担者 |
元木 邦俊 北海学園大学, 工学部, 教授 (80219980)
松崎 博季 北海道工業大学, 公私立大学の部局等, その他 (60305901)
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 准教授 (00261389)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | 音声 / 音声生成 / 発声 / 病理発声 / 声帯 / 声道 / 音響解析 / 非線形モデル |
研究概要 |
病的発声においては、声帯の振動が不規則になる。我々は、そのような不規則な声帯振動が生じる物理メカニズムに興味を持っており、昨年度は、非線形振動子の結合系における「2つの周期解のスイッチング現象」を参考にして、不規則振動の背後に想定されるダイナミクスの検討を行った。今年度は、声帯振動の物理的機構に即したメカニズム解明を行うことを目的として、声帯間を通過する呼気流の振る舞いを2次元的に数値解析する検討を行った。病的発声においては、左右の声帯振動が同期しないため、流路の形状が非対称になる。そのような非対称流路における呼気流解析は、いまだ十分に行われていない。我々は、2次元の境界層解析とポテンシャル流解析のハイブリッド法を開発し、様々な声門形状における流れの様相を明らかにすることに成功した。声道の音響解析について、声道モデルの高度化のために壁インピーダンスを非対称に設定する解析的な手法を提案し、数値計算により妥当性を検討した。これにより例えば、硬口蓋と舌面など壁特性が異なる部位の境界条件をより実態的に表現することが可能となった。また、時間領域差分法による声道内の音響解析において数値計算をGPUで、計算結果の可視化をCPUで行う方法を確立し、声道形状のデータとして使用する磁気共鳴映像法により撮像された断層画像を時間領域差分法で計算できるように自動的に画像処理する方法の検討を行った。歌唱において、より効率の高い発声を実現する方法として、声道の第一フォルマント周波数を声帯の基本周波数にチューニングする技法が知られ、ソプラノ歌手などで確認されているが、テナガザルも同様の方法で効率よく発声していることをヘリウム実験および計算モデルを通して発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
音声の生成過程における非線形の要因として、喉頭の音源部と声道の音響フィルタとの相互作用に着目し、その相互作用の効果について定量的な知見を得ることができた。また、病理音声における不規則的な声帯振動について、具体的なデータを立脚点としてそのメカニズム解明に向けた検討が開始された。声帯振動の不規則性の背後に想定されるダイナミクスとして、非線形振動子の結合系における「2つの周期解のスイッチング現象」を仮定し、得られる振動的パタンを実際の振動パタンと比較することにより、左右の声帯振動の位相構造に着目した解析が可能であることを示した。さらに、左右の声帯のアンバランスに起因した不規則振動において、声門の形状が左右で非対称となることから、このような特殊な流路を流れる呼気の様相を高精度かつ高速に数値解析する手法を実現することができた。この方法は境界層解析とポテンシャル流解析のハイブリッド法であり、声帯表面において流れが剥離する現象を高精度に解析することが可能である。この流れの剥離現象は、声門流量や声門内の圧力分布に多大な影響を及ぼすことから、病的発声の解明に新しい知見をもたらすと期待される。また、声帯振動の観測法、声道音響特性の解析法についても、順調に研究成果が得られている。研究成果の外部発表については、きわめて顕著な業績が得られている。これまでの2年間の研究期間において、雑誌論文については、平成23年度が4本、24年度は7本(うち1本は印刷中)の合計11本であった。国際会議、学会、研究会などの口頭発表は、平成23年度、24年度、ともに16件(招待講演はそれぞれ2件と1件)の合計32件であった。
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今後の研究の推進方策 |
病的発声における不規則的な声帯振動のメカニズムを解明するには、声帯間を通過する呼気流の解析法とともに、粘弾性的な運動を行う声帯の連続体モデルが不可欠であり、次年度はこの課題に対して重点的に取り組む。ここでは、異方性弾性体の線形運動方程式を基として、数値解法としては粒子法を用いた解析モデルを構築する。さらに、この弾性体モデルと流体モデルの相互作用のもとに、声帯の自励振動を再現し、通常発声と病理発声における差異を検討する。 昨年度に引き続き、喉頭のステレオ動画計測データから、声帯の3次元動態復元を行うためのステレオマッチング法の高速化と自動化を進める。新規に開発したステレオ内視鏡を用いて、新たなデータ計測を行う。多様な3次元動態を包括的に調べるため、胸声およびファルセットの異なる声区について、複数の被験者からの計測データを解析し、声帯振動機構を詳細に分析する。 声道の音響解析について、矩形管による3次元声道モデルを用いて、入力端での空間的な音響インピーダンス分布が駆動音源部へ与える影響について検討する。また、声道形状は左右方向にほぼ対象であるが、喉頭腔が湾曲した非対称の例も見られる。病的な例も含めて声道形状の非対称性が発声に与える影響を数値解析により調査する。
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