研究概要 |
本研究の目的は,人間の音楽感性情報処理の一大基盤となっている調性的体制化(tonal organization)の処理に焦点を当て,文化差や熟達差を含めた形で,聞き手の調性処理の過程を統一的に説明するモデルを構築することにある。 本年度は,音楽的背景の異なる聞き手の違いを"Mono-musical(1種の調性スキーマを持つ聞き手)vs.Bi-musical(2種の調性スキーマを持つ聞き手)"という角度から捉え,bi-musicalの脳活動を脳磁計(MEG)を用いて調べた。そのMEG研究では,"西洋音楽-日本伝統音楽"のbi-musicalによる2種の音階スキーマの使い分けには下前頭皮質(inferior frontal cortex)内の下位領域の違いが寄与していること,そして,その賦活部位の違いはbi-musicalの習得している日本伝統音楽の熟達の程度に依存しないことを示す実験結果を報告した。また,このような神経科学的研究と並行して,bi-musicalの音楽認知処理過程の振る舞いを説明すべく,単純再帰型神経回路網モデルを構築する研究にも取り組んだ。現在,"西洋音楽-日本伝統音楽"のbi-musicalが西洋音楽を聴いた時に知覚する調性はニューラルネットワークモデルによってシュミレーション可能であることを実験的に確認したところである。今後は,このモデルを,日本伝統音楽を聴いた時にbi-musicalが知覚する調性知覚も説明できるように拡張していくことによって,今後,文化の異なる聞き手の調性知覚を統一的に説明できるモデルを構築できる可能性が出てきたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,2種の行動実験と2種のMEG実験を実施すると共に,計算論的モデル化の作業たも着手した。また,成果の面においては,2本の学術論文,3本の著書を刊行した。これらのことから,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,(1)mono-musicalとbi-musicalの脳活動に違いがあるのか,(2)発達過程の早い時期から2種のスキーマを獲得したbi-musicalと遅い時期にスキーマを獲得したbi-musicalとの脳活動に違いがあるのか,を検討する実験を実施する。これらの実験実施においては,純粋なmono-musicalの聞き手と,発達過程の遅い時期にスキーマを獲得したbi-musicalな聞き手が必要となる。これらは現代の日本社会には存在し難いと考えられるため,今後は西洋音楽文化圏において実験及び調査を行う予定である。
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