研究概要 |
本研究では,西洋音楽の調性スキーマと日本伝統音楽の調性スキーマとを有する日本人bi-musicalの脳活動を,脳磁場計測装置(MEG)を用いて調べている。本年度は,日本人bimusicalにとって馴染みの低い日本伝統音楽(M2, the second music)の習得レベルに焦点を当て,習得レベルの違いによって脳活動がどのように変容するのかを調べた。実験の結果,M2の習得レベルが高いbimusicalの脳においては,低いbimusicalよりも,M1(西洋音楽, the first music)の信号源とM2の信号源との距離は有意に短いことが明らかになった。この結果は,「左下前頭回における第1言語と第2言語の賦活領域の距離は第2言語の習得レベルが上がるにつれて短くなる」というbilingualの知見(Golestani N., Alario F.-X., Meriaux S., Le Bihan D., Dehaene S., Pallier C. 2006. Syntax production in bilinguals. Neuropsychlogia, 44, 1029-1040.)と一致する。この一致性からすると,言語/音楽システムの習得に伴う脳の機能的変化は,領域に限定されず,一般的な性質のもとにあるといえよう。 本年度も,ニューロイメージング研究と並行して,計算論的モデリング研究を実施した。人間の調性認知モデルとして基本的な要件3点(「学習機能をもつこと」,「初期条件の適切性」,「学習用の入力音楽データ群の適切性」)のいずれにおいても,先行研究によりも限定の少ないコネクショニストモデルを構築した。そして,そのモデルに西洋音楽を曝したところ,西洋音楽文化圏で育つ子どもと同じ学習過程を経て,西洋音楽の調性スキーマを学習することが明らかになった。さらに,モデル内部に設定する結合強度の初期値によっては,先天的な失音楽症をシミュレートできることが観察された。
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