研究課題/領域番号 |
23300085
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (90313709)
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研究分担者 |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30211121)
藤田 耕司 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (00173427)
金野 武司 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 研究員 (50537058)
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キーワード | 超越性 / 言語の起源と進化 / 超越的コミュニケーション / 生物言語学 / 複合的アプローチ / 言語進化実験 / 構成論的アプローチ / 代替表現 |
研究概要 |
人間言語に特有の性質として「いま,ここ,わたし」を離れた事象に言及できるという超越性(displacement)がある.これは,言語の起源・進化を解明する上で重要な問題である.本研究では,この超越性に対して,実験,構成論,理論という異なるアプローチを組み合わせて迫る. まず超越性自体の概念化を行った.これまでの超越性に関する研究では,その場に無い事物への言及・参照が対象とされ主に記憶能力について研究されてきた.本研究では,人間言語の基盤的能力として超越性に着目するため,この超越性の機能的意義を「他者の知らない知識を伝達すること」と捉え,ヒト特有の超越性の特徴を分析した.その結果,単なる記憶能力ではなく超越性の能力を分析するには,話し手だけでなく聞き手の理解(超越的理解)も分析に含める必要があり,言及対象が話し手および聞き手の記憶にある場合と経験に無い場合の区別が重要であることを明らかにした. つぎに,実験アプローチの一つである「超越性の認知実験」の研究として,超越性を実現するための認知能力を明らかにする認知実験の枠組みを上記分析結果に基づいて開発した.実験参加者2人が1組になり,聞き手の記憶にある事物と経験にない事物を描画で伝えようとする.この描画コミュニケーションの特徴を分析することで,超越的コミュニケーションを実現するために描画者がどのような工夫を行うかを分析し,記号の抽象化作用である「特徴抽出」の重用性を確認した.特に,形容詞のような表現しにくいことを伝えるために,対象間の類似性を利用する代替表現と経験に基づく動作・表情を描く身体的表現が,経験にない事物を伝える際に多用されることを明らかにした また,生物言語学的アプローチと構成論的アプローチで超越性に迫るため,鳥の歌の統語的特徴の究明,生成文法理論からの言語起源の問題定義,および,意図的主体性モデルの開発を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に予定していた認知実験の開発は順調に進んだ.そして,代替表現と身体的表現という工夫により超越的コミュニケーションが達成されていることを明らかにできた. 現在の実験デザインをもとにした脳波計測の課題の検討を始めた. また,生物言語学的に超越性を直接扱うところまでは進めていない.
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今後の研究の推進方策 |
超越的コミュニケーションで発揮される認知能力を特徴付けていくために,認知実験を様々な条件で実施する.その結果に基づいて,脳波計測が可能となるような実験条件の設定やプロセスの削減などの簡単化を工夫する. 言語以前にも可能である人間の重要なコミュニケーション手段として視線に着目し,視線コミュニケーションと超越的コミュニケーションの関係を,実験と構成論的シミュレーションをもとに検討し,超越的コミュニケーションの特徴を明らかにしていく. 理論言語学および数理モデルのアプローチについて,相互の結果を参考にしつつ並行させて推進していく.
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