研究概要 |
(1)比喩外要因として比喩の使用目的(説明的か詩的か)によって,比喩生成過程にどのような違いがあるかを検討するために,名詞隠喩において被喩辞と強調した.い特徴から喩辞を生成する実験,および比喩生成の際にどのような概念が想起されるかを調べるプライミング実験を行った.その結果,説明的な比喩を生成する際には,表現したい特徴を典型的に持つ概念のみを探索して喩辞を生成するのに対し,詩的な比喩を生成する際には,典型的でない概念までに探索範囲を広げて喩辞が生成されることが明らかになった. (2)比喩外要因が比喩の面白さや詩的効果の認知に与える影響を検討するため,個人の作業記憶容量や比喩と意味的に関連する解釈情報の呈示が,比喩の理解しやすさや面白さの認知にどのように影響を与えるかを,心理実験をもとに検討した.実験の結果,個人の作動記憶容量に,比喩の理解しやすさや面白さとの相関は見られなかった.一方で,比喩の解釈文を呈示することで理解しやすさや面白さが高まり,特に解釈文の数が多くなるほど,その傾向は強まることが明らかになった. (3)形容詞隠喩では否定的な意味が喚起されやすいという現象のメカニズムを解明するために,比喩から喚起される意味と,それぞれの喩辞および被喩辞から運想される語との関連を心理実験により調査した.その結果,比喩表現が形態に関わらず喩辞からの連想語の影響を受けやすく,また喩辞が中立の意味の時,名詞比喩や動詞比喩と比べて,形容詞比喩は否定の連想語の影響を大きく受け,否定的な意味を喚起しやすいという結果が得られた. (4)比喩理解や鑑賞・生成過程をモデル化するための計算モデルの枠組みであるベクトル空間モデルにおける意味合成方法について,シミュレーション実験を行い検討した.その結果,ベクトル空間の各次元が明確な意味を有する局所的意味表現の場合にはベクトル積に基づく意味合成手法が適しているが,ベクトル全体として意味を有する分散的意味表現ではベクトル和に基づく意味合成手法が適していることが明らかになった. 以上の(1)~(3)の結果はthe 34th Annual Meeting of the Cognitive Science Society (CogSci2012}に3件の論文として,(4)の結果はthe 11th International Conference on Cognitive Modeling(ICCM2012}に1件の論文としてそれぞれ採択され,平成24年度に発表予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に成果が得られた研究については,当初の計画どおりに発展させていく.特に,個人の作業記憶容量の違いによる比喩理解・鑑賞過程の影響について実験を行っていく予定である.また,比喩生成過程の解明についても,形容詞比喩の否定的な意味の喚起のメカニズム解明にもつながる可能性があるため,さらに追及していきたい.
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