研究課題
本研究の目的は、意味知識の構造的な発達過程を明らかにすることである。近年の研究では、意味知識を、概念と概念の関係性(連想性、類似性など)に基づいたネットワークとして捉える理論が成人のデータを基に提案されている。その一方で、乳幼児の大規模な意味知識の解析は困難であると考えられてきた。その理由は、乳幼児(1-3歳児)は個々の単語の理解は可能であっても、複数の単語間の関係を判断し、それを産出(発話)する事が困難であるためである。本研究では、意味の理解を非言語的情報から推定することで、この問題を打開し、乳幼児の意味知識の発達過程を明らかにする。具体的に、本研究の到達目標を、言語的反応の得られやすさなどの技術的な制約の少ない順に、1.成人、2. 3-6歳児、3. 1-2歳児の3つの中間目標を置いた。既に、1. 成人、2. 3-6歳児に関しては、限定された単語群(50語)に関して、類似性判断が得られている。従って、この類似性データを指針として、注視行動などの間接的な行動指標を分析を行い(23-24年度)、この結果を足がかりとして、言語的な判断を得る事の困難な3. 1-2歳児の類似性判断の推定に取り組んだ(24年度)。実際に、平成23-24年度には乳児の注視行動を分析する統計的手法を開発し、乳児の注視行動と実験刺激、そして数理的モデルとして表現した仮説の3者をつなぐことで注視行動を予測するセミパラメトリックベイズモデルを提案した。このモデルベースの分析法を応用し、実験で得られた6-9ヶ月児, 13-15ヶ月児の注視行動の分析を行った。この結果、乳児の多感覚刺激の連想学習および、言語学習において注視行動と潜在する学習メカニズムの統計的な関係の一端を明らかにした。これらの研究成果は既にジャーナル論文として2報(2012, 2013)発表し,これに加えて、もう1件投稿し査読中となっている。
2: おおむね順調に進展している
計画に従って、新たな統計的モデル分析法を開発し、乳児の注視データの分析を行い、学習に関わる視線行動のパタンを抽出することができた。これは当初想定した3つの中間目標のうちで、研究は最終段階に入っていることを意味する。今後は、すでに構築したモデルをより多くの実験データに応用し、その一般性を示していくことになる。また、ここまでの研究成果は雑誌論文として2編を発表し、これに加えて、もう1編を投稿中である。
当初目標としていた理論・方法論構築が、すでに一定程度達成されており、今後の研究の方向としては、このモデルを実際のデータに応用することで、その実際的な応用範囲を確認することに主眼が移っている。これに関しては、すでに発表した論文(6-9ヶ月児)に加えて、14ヶ月児を対象とした言語学習の実験を行った研究グループとの連携し、研究成果を論文にまとめ投稿中である。今後もさらなる実験データへの適用を視野に、さらに理論・方法論の向上に努めていく。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
PLoS ONE
巻: 8 ページ: e76242
10.1371/journal.pone.0076242