本研究は、ショウジョウバエ胚・幼虫を用いて中枢パターン生成器(Central Pattern Generarot: CPG)によって制御されているぜん動運動の発達過程における感覚受容の役割を調べることを目的とする。胚期のショウジョウバエは、産卵後17時間からぜん動運動が徐々に活発になっていき、産卵後22時間で孵化する。運動初期の段階では、各体節は協調せずに個々の筋肉がランダムに収縮する動きのみが見られるが、孵化直前にはこのような散発的な収縮はほとんど起こらず、隣接した体節が協調的に収縮と弛緩を繰り返す成熟した運動パターンが観察される。つまりショウジョウバエの胚発生後期と孵化後数時間の間に、ぜん動運動のパターン形成及び速さの調整が活発に行われることにより、ぜん動運動に関わるCPGが形成されることが示唆される。そこで、昨年度までの計画において、特定の発生時期に種々の感覚神経細胞を抑制し、chordotonal neuron(cho)と呼ばれる感覚神経細胞の活動の、胚発生16-20時間における阻害が、ぜん動運のパターンに長期的な影響を与えることを見いだした。本年度計画においては、以上の感覚入力依存的な運動回路発達機構をより良く理解するため、成熟後の幼虫の運動制御におけるchoの役割を探った。このため、GCaMPを用いたカルシウムイメージングにより、ぜん動運動中のchoの活動様式を解析し、ぜん動運動に伴い各体節間を伝搬する活動を観察した。また、温度感受性Shibireタンパク質を用いて、choの活動を一過的に阻害するとぜん動運動の速度が遅くなることを見出した。以上の結果は、choがぜん動運動時において各体節において筋肉収縮の情報を中枢にフィードバックしており、このフィードバックがぜん動運動の速度の制御に貢献することを示唆している。
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