昨年度までの研究により、アルギニンがT型Caチャネル依存性長期増強(T-LTP)の発生を抑え、nNOS-ChR2/GFPマウスから作製した視覚野スライス標本では、青色光照射によるnNOS細胞の活性化によりT-LTPの誘発が抑えられることが分かった。これらの結果を踏まえて、nNOS細胞の活動が視覚反応の可塑性の制御に関与するかを解析した。 片眼遮蔽の間、持続的にアルギニンを視覚野に注入すると非遮蔽眼刺激により視覚野に誘発される細胞外電位(VEP)の増大が抑制され、T-LTPが非遮蔽眼反応の増大に寄与することを支持する結果が得られた。しかし、遮蔽眼刺激により誘発される反応の減弱にも抑制される傾向が見られ、T-LTP以外のシナプス可塑性にもNOによる制御が行われている可能性があることが分かった。また、片眼遮蔽なしで視覚野にアルギニンを投与すると、その濃度に依存してVEPの大きさが影響を受けることも分かった。従って、実験結果の解釈は慎重に行う必要があると考えている。 nNOS-ChR2/GFPマウスの視覚野の上に青色発光ダイオードを装着し、片眼遮蔽の間nNOS細胞に活動電位を発生させる実験を試みた。しかし、5-6日間の間持続的に光照射することが技術的に困難で、その光刺激が視覚入力となる問題もあり、実験はうまくいかなかった。 片眼遮蔽によりnNOS細胞の活動が変化するかを、活動依存的に発現するc-Fosを用いて調べた。暗室に一晩おいた後、1-2時間両眼視あるいは片眼視させた後、灌流固定して、nNOSとc-Fosに対する2重免疫組織化学染色を行った。nNOS細胞のc-Fos発現は、両眼刺激の場合の方が、片眼刺激の場合より強い傾向が見られた。 以上の結果は、nNOS細胞が視覚反応の可塑的変化を制御することを支持するが、その制御の詳細な機構を理解するためにはさらなる解析を必要とする。
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