研究課題/領域番号 |
23300122
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研究機関 | 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所 |
研究代表者 |
小早川 令子 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, 神経機能学部門, 室長 (40372411)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経科学 |
研究概要 |
先天的と後天的な恐怖関連行動を評価する特異的な生理指標の開発を目的とした研究を実施した。人工化合物ライブラリーからマウスに対して先天的な恐怖を誘発する匂い分子を探索した。その結果、数種類の化学構造ルールを満たす匂い分子によって極めて強力な先天的な恐怖反応が誘発されることが明らかになった。既知の天然物に由来する匂い分子と比較してFreezing行動の誘発活性が有意に高い人工物由来の匂い分子を「恐怖臭」と名付けた。異なる種類の恐怖臭を用いることで様々な強度で先天的な恐怖を誘発することが可能になった。恐怖臭の発見により、同一の感覚入力によって誘発され、同等レベルのFreezing行動を伴う先天的と後天的な恐怖を比較解析することが初めて可能になった。先天的と後天的な恐怖はFreezing行動、血中ストレスホルモン濃度、筋電位などの既知の恐怖指標では区別できないことが明らかになった。しかし、両者の恐怖では先天的な恐怖においてのみ体表面温度の大幅な低下が見られた。更に、先天的と後天的な恐怖に伴う体深部温度と、心拍数の変化を無線埋め込みプローブで解析した。その結果、先天的な恐怖においてのみ体深部温度の大幅な低下と共に、心拍数の急減が認められた。これらの実験結果から、嗅覚入力による先天的と後天的な恐怖は既知の恐怖指標では区別できないにも関わらず、体温や心拍数を指標にすることで明確に区別できる異なる種類の情動応答であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに報告でも、特定の動物や特定の刺激条件においては、恐怖に関連する刺激によって皮膚の温度が低下することが知られていた。これまでの報告では末梢神経への血流低下により皮膚温度が低下し、それに伴い血流量が増大する体深部では温度上昇が誘発されることが報告されていた。当初の計画では、これまでに他の動物や感覚入力によって報告された恐怖応答に類似した応答が、特定の嗅覚入力によっても誘発される可能性を検証することを想定していた。しかし、当初の予想に反して恐怖臭によって誘発される先天的な恐怖では、体表面温度の低下に加え、体深部温度の低下も同時に誘発されることが明らかになった。従って、恐怖臭による先天的な恐怖はこれまでに恐怖応答の論理では説明することのできない新しい種類の恐怖応答が存在することを初めて解明したという点で重要である。
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今後の研究の推進方策 |
嗅覚入力による先天的と後天的な恐怖を特異的に制御する脳のメカニズムを解明する。私たちが初めて発見した恐怖臭によって誘発される先天的な恐怖を特異的に制御する脳神経回路や、神経細胞における分子ターゲットを解明することで、先天的な恐怖を制御するメカニズムの全貌の解明を目指す。
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