先天的と後天的な恐怖を分離して制御する神経回路の動作機構を解明する研究を実施した。これまでの研究により解明された恐怖情動の制御中枢領域において、特定の神経伝達物質の受容体を発現する神経細胞にCre組換え酵素を発現するトランスジェニックマウスを選択した。このトランスジェニックマウスの恐怖情動の制御中枢領域に、Cre組換え酵素の存在下でGq-DREADDまたはGi-DREADDが発現するウイルスベクターを注入した2種類のモデルマウスを作成した。これらのマウスの行動解析の結果、恐怖情動中枢に存在する特定の種類の神経伝達物質受容体を発現する神経細胞によって、先天的と後天的な恐怖行動が逆方向に制御されることが初めて明らかになった。本研究成果は、行動や情動制御における「氏と育ち」論争という広範な問題点を含む課題に、神経回路レベルでこれまでに予想されていない氏と育ちが拮抗する関係にあることを明確に示した結果としても重要である。受容体遺伝子レベルでの先天的な恐怖情動の誘発メカニズムは不明である。この問題を解明するために、全嗅核受容体の機能発現解析の結果明らかになった、先天的な恐怖情動の制御に関与する候補受容体の機能を強化した新たなモデルマウスを4種類作成した。
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