研究課題/領域番号 |
23300126
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
新谷 隆史 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, 准教授 (10312208)
|
キーワード | 神経組織 / 細胞移動 / 神経回路形成 / 細胞骨格 / 情報伝達 |
研究概要 |
APC2について遺伝子欠損マウスを作製し、脳神経系の異常について解析を行った。まず、神経細胞の分布について詳細に解析した結果、大脳皮質、海馬、小脳、嗅球などの様々な脳の領域で、層構造が正常に形成されていないことを見出した。また、各種の層特異的な分子に対する抗体染色や、ブロモデオキシウリジンを用いたbirth date解析から、これらの層構造の異常は、誕生した神経細胞が秩序だった細胞移動を行わずに、ランダムに移動することによって生じることを明らかにした。さらに、発生期のAPC2欠損マウスの脳より神経細胞を取り出し、細胞移動について詳細な解析を行ったところ、APC2を欠損した神経細胞は、移動中の神経細胞を誘引する因子や遠ざける因子に応答する能力を欠いていることを見出した。一方、全反射顕微鏡を用いた観察により、APC2は、微小管に加えて、Fアクチンにも結合することが明らかになった。以上の結果より、APC2は微小管やアクチン骨格に結合し、それらを制御することを通して、細胞外の情報を細胞骨格に正確に伝えるという、非常に重要な役割を果たしていると考えられる。ヒトにおいて、神経細胞の移動に異常が生じると、滑脳症などの、精神発達の遅れや運動障害、てんかんなどをともなう疾患や、統合失調症などを発症するが、APC2欠損マウスは、運動機能の異常や、てんかん発作などの異常を示すことから、ヒトにおいて神経細胞の移動の異常によって生じる疾患が発症する仕組みや、それらの治療法の開発につながる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
APC2遺伝子欠損マウスの解析が順調に進んだため。その結果、論文としてまとめることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
APC2遺伝子欠損マウスにより調製した初代培養神経細胞を用いて、APC2が関与する情報伝達機構の解明を目指す。また、APC2遺伝子欠損マウスについて神経投射の解析を進めることにより、神経回路形成におけるAPC2の役割を明らかにする。さらに、APC2と相互作用が推定される分子について、生化学的な解析を進めるとともに、APC2遺伝子欠損マウスにおける分布や発現の変化を解析することにより、APC2との相互作用の生理的な意義を明らかにする。
|