前年度までの研究により、分界条床核において痛みにより遊離亢進したCRFが、分界条床核内2型神経細胞(GABA含有介在神経)を活性化し、分界条床核から腹側被蓋野に投射するGABA神経を抑制することで、腹側被蓋野内GABA介在神経を活性化し、最終的には腹側被蓋野内ドパミン神経を抑制して嫌悪情動あるいは抑うつ情動を生成させる可能性が示された。さらに、ニューロペプチドY(NPY)の分界条床核内投与により痛みによる不快情動が抑制されること、NPY同時適用によりCRFの分界条床核2型神経細胞の活性化が抑制されることを明らかにした。これらの結果は、分界条床核内でCRFとNPYが相反的に働き、痛みによる不快情動を制御していることを示している。 今年度の研究では、CRFによる分界条床核内2型神経細胞の活性化が、アデニル酸シクラーゼーcAMPーPKA系の活性化を介していることを種々の阻害薬・活性化薬を用いた電気生理学的解析により明らかにした。一方、本研究により示された分界条床核から腹側被蓋野に投射するGABA神経の役割を明らかにするために、オプトジェネティクスを用いた解析を開始していたが、これについては、今年度初頭に同様の研究が米国の2つのグループにより学術雑誌に報告されてしまった。我々が予想したとおり、分界条床核から腹側被蓋野に投射する神経は腹側被蓋野ドパミン神経の活動を調節するという報告であった。そこで、慢性疼痛が腹側被蓋野ドパミン神経活動に及ぼす影響を検討したところ、本来、報酬提示時に観察される腹側被蓋野ドパミン神経活動の亢進が、慢性疼痛モデル動物では観察されないことが明らかとなった。慢性疼痛時の抑うつ気分や慢性疼痛患者に見られる高いうつ病併発率に関連する可能性が考えられた。
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