研究課題/領域番号 |
23300131
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
漆谷 真 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 准教授 (60332326)
|
研究分担者 |
北原 亮 立命館大学, 薬学部, 准教授 (70512284)
|
キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 抗体療法 / NMR解析 / 免疫組織化学 / モデルマウス |
研究概要 |
本研究の目的は高圧力NMR法を用いたTDP-43の構造平衡の解析により、ALS発症に関わる分子構造変化を捕らえ、ALS病態の解明と逸脱構造を標的とした抗体医療への応用を目指すものである。平成23年度の進捗は以下のとおりである。 RRM1ドメインは天然状態では可溶性の非常に高いが、24時間の高圧処理によってRRM1は処理後に経時的なRRMI分子間ジスルフィド結合を介した二量体形成を起こし不溶化することが判明した。さらにRRM1ドメイン内に3箇所の、圧力処理によって不可逆的な化学シフトを示すアミノ酸グループを同定した。この部位はRRM1凝集体のプロテアーゼ抵抗部位とオーバーラップしていることから、本部位を抗原としたウサギポリクローナル抗体を作製した。細胞質に異所性局在したTDP-43とRRM1内のシステインの置換変異体(核内凝集体)とALS患者における細胞質内封入体を認識した。以上よりTDP-43のコンフォメーション維持のためにはRRM1ドメインのシステイン残基がフリーであることが重要であり、抗体エピトープはTDP-43の凝集体形成阻害のための標的分子となりうることを示している。一方、RRM2ドメインはRRMIドメインと異なり、圧力刺激による不溶化はほとんど認めなかったが、核脱出シグナル(NES)内にある2つの酸性アミノ酸(E246,D247)がRRMIの可溶性モノマーの維持に重要であり、これらの変異体は可溶性オリゴマーを形成しDNAとの結合力が低下することを発見した。さらにE246/D247を含むペプチドを免疫して作製したハイブリドーマ上清を、野生型RRM2タンパク質とE246G/D247Gの置換変異RRM2タンパク質を用いたポジティブ/ネガティブセレクション、さらにALS患者切片におけるTDP-43凝集体を認識するモノクロナール抗体(3B12A)を作製した。この抗体の解析によって、E246/D247部位は天然状態では分子内部に存在しているが、細胞質への異所性局在によって外部に露出することが判明した。これらの成果は現在投稿準備中(RRM1)、ないしは投稿中(RRM2)である。このように本年度は当初予定を上回る進捗を達成できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定では本年度はRRM1、RRM2のミスフォールディングに関わるドメインの同定と抗体の作製までであったが、さらにRRM1とRRM2において同定したドメインがそれらのミスフォールディングに関与する分子機構と、作製した抗体を用いた培養細胞、ALS患者組織を用いた分子病理について知見が得られ、特許申請に加え2報の論文投稿に至ったため。
|
今後の研究の推進方策 |
1)RRM2のE246/D247に対するモノクロナール抗体のハイブリドーマcDNAから可変領域をクローニング、哺乳細胞内で発現するVH,VL,VH-VL3種類のIntrabody (scFv)を作製する。 2)RRM1の3ドメインのうちウサギ抗体で培養細胞、人組織でミスフォールドTDP-43を染色するペプチド配列に対するマウスモノクローナルの作製を行い、intrabodyの作製を目指す。 3)RRM1-RRM2のタンデム配列の安定同位体を作製し、圧力、還元刺激によってコンフォメーション変化、局所ドメインの変化を調査する。 4)TDP-43トランスジェニックマウスの繁殖と表現型、病理所見の解析を行ったが、マウス導入前には想定しなかった以下の大きな問題点が浮上した。(1)雌雄で寿命が極端に異なり、特に雄は生後70日で死亡するが、その間明らかな運動麻痺を認めない(腸管の異常拡大あり)。また繁殖も極めて困難であり、ALSモデルマウスとしては極めて不適当と判断した。よって本年度はマウス胎児脳にTDP-43の発現プラスミドを子宮内エレクトロポレーション法によって発現され、抗体治療研究に応用する。
|