研究課題
本研究の目的は蛋白構造解析に基づいて、TDP-43分子のALS発症に関わる構造変化を捕らえ、ALS病態の解明と逸脱構造を標的とした抗体医療への応用を目指すものである。平成24年度の進捗は以下のとおりである。1)機能不明なRRM2ドメインの特定の酸性アミノ酸(E246, D247)がTDP-43の構造・機能維持に重要であること、同部位に対するモノクロナール抗体(3B12A)がALS患者の細胞質封入体を認識することを明らかにした研究成果を国際学術誌に報告した(Shodaiら PLos ONE 2012)。2)高圧NMR解析と質量解析実験によって、TDP-43の重要な機能部位であるRRM1ドメインが構造的に脆弱であり、病的構造変化に関する3種類の部位を同定した。さらに局所密度の増加や酸化ストレスによって、そのうちの1つの部位内に存在するβシート配列を介してRRM1の異常会合状態となること、同部位を抗原とするペプチド抗体がALS患者におけるTDP-43封入体を認識することを明らかにした。計画通り、同部位に対するマウスモノクロナール抗体を作製したが、ポリクローナル抗体に比べ、TDP-43封入体への反応性が低いもののみにとどまった。3)会合面のシステイン変異体の解析を進めた結果、RRM1のシステイン変異によって、核内封入体形成のみならず、細胞質への異所性局在とユビキチン化・リン酸化封入体の形成、RNAスプライシングの障害、家族性ALS変異体の凝集体形成能の亢進、運動ニューロン毒性といったTDP-43の多くの細胞病理現象を再現し、新たなハイスループットに有効な新たなALS細胞モデルの構築に成功した。本技術に関して新たに特許出願を行い、成果を国際学術誌に報告した(ShodaiらJBC 2013)。
2: おおむね順調に進展している
RRM2ドメイン内の重要アミノ酸の同定とモノクロナール抗体開発に関する研究成果は国際学術誌に採択されたが抗体の可変領域のクローニングは年度内には終了しなかった。RRM1に関してALSの発症に関わるTDP-43の病原性構造への変換機序の一端が明らかとなり、国際学術誌に採択され、さらに特許出願を行えた。RRM1-RRM2タンデム構造の実験は精製と機器の調整に時間を要し、年度内に進めることが出来なかった。
1) RRM2のE246/D247に対するモノクロナール抗体(3B12A)のイムノグロブンリン可変領域のクローニングをIntrabody(scFv)を作製し、RRM1システイン変異によるALS細胞モデルを指標にして分子標的治療の基礎実験を行う。2) ALS細胞モデルを用いて、凝集体結合タンパク質、発現遺伝子スクリーニングを行う。ハイスループットスクリーニングを目的とした、産学連携の可能性を探る。3) 子TDP-43を標的とした治療研究の最大の障壁は、げっ歯類以上の信頼に足るモデル動物が存在しないことである。我々が発見した新たな変異TDP-43は遺伝子導入によって有用なALSモデル動物になる可能性を有している。最終年度となる本年は、この動物モデルの確立を視野に入れ、将来的な子宮内エレクトロポーレーションの改善、細胞質凝集体モデルの発現による表現型の変化を観察し、初代培養系で抗体の評価を行う。本事業は次年度が最終年度となるが、今回の研究成果の治療への応用を目指し、ALSの変性病巣に効果的に保護分子や抗体を発現するミクログリアを用いた新規のドラッグデリバリーシステムの構築を行う。
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J Biol Chem
巻: 288, 21 ページ: 14886-14905
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http://www.shiga-med.ac.jp/~uru/index.html