研究課題
独自に開発した閉鎖性頭部外傷モデルである光傷害マウスでは、損傷周辺部位にネスチン陽性活性化アストロサイト(Nestin-expressing reactive astrocyte、以下NRA)が集積し、この部分で顕著な脳組織再生が見られる。NRAが脳組織再生に果たす役割を明らかにする目的で、遺伝子改変マウスを用いてこの細胞の運命決定、および選択的除去を行なう実験系を確立した。具体的にはネスチンプロモーターの下流でCreもしくはCreと改変型エストロジェン受容体融合タンパク質を発現し、これを利用してGFPを発現させたり、アストロサイト活性化において主要な役割を果たすSTAT3またはSOCS3遺伝子を破壊した。本年度までの検討により、GFPによって標識されたNRAは損傷の治癒に伴って減少し、神経細胞などの機能細胞二分化する事はないことが明らかになりつつある。また、STAT3遺伝子のNRA選択的破壊は、NRAの集積を阻害するとともに、損傷周辺部位の組織再生を抑制した。これに対してサイトカインによるSTAT3活性化を抑制するSOCS3の破壊はNRAの大きさと数を増加させ、組織再生を顕著に促進した。これらの結果から、NRAは損傷後に増加・集積することによって組織再生に主要な役割を果たす一方、組織回復後に除去されると考えられる。また、すでに顕著な組織再生が見られる光傷害マウスであってもSOCS3破壊では、再生の更なる促進が見られたため、薬物治療などによって回復の程度を高めることが可能であることが示された。
3: やや遅れている
計画段階で予定してた遺伝子改変マウスが十分な表現系を示さなかったため、一部変更を行なった。特にネスチンプロモーターにより発現させる遺伝子をCreからCreと変異型エストロジェン受容体に変更した。このために、交配や条件検討に、当初予定した以上の時間がかかっている。しかし、これらのマウスは十分な結果を生みつつあり、予定していた実験結果は得られる見込みである。
遺伝子改変マウスを利用した実験系が軌道にのった状況にあり、当初予定していた検討を進める。具体的には、NRAの運命決定の詳細と、NRA除去または増加が脳傷害の病態に与える影響を決定する。NRAの運命決定は、計画段階で神経細胞などの機能細胞に分化することを予想していたが、得られた結果によると、組織再生後に除去されることが明らかとなった。この点をふまえ、分化の詳細を決定するのではなく、除去メカニズムの解明を進める。
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Protein expression and purification
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