研究課題
我々は以前自閉症患者におけるCAPS2 mRNA発現の解析を行い、一部の患者においてエクソン3(111アミノ酸残基をコード)を欠失した本来稀な選択的スプライシング亜型CAPS2-dex3の発現が異常に増加していることを見出した。昨年度は、28個のエクソンをもつマウスCAPS2遺伝子のうちこのエクソン3を特異的に欠失させた遺伝子改変マウスを作製し、その表現型の詳細な解析を継続した。CAPS2-dex3は細胞体や樹状突起には局在するが軸索での局在分布が低下し、その結果、軸索部からの有芯小胞の分泌促進が起こらなくなることがさらに明らかになった。小脳では、顆粒細胞の軸索部におけるBDNFとNT-3の局在が減少し、分泌が低下する。その結果、プルキンエ細胞の樹状突起形成、小脳虫部の裂形成、顆粒細胞前駆体の増殖などに異常が観察された。また、平行線維―プルキンエ細胞シナプスにおけるプレシナプス機能の低下が示された。これまでのCAPS2-dex3マウスの表現型データを総合すると、軸索部におけるCAPS2を介した有芯小胞の開口放出の促進作用は、大脳皮質、海馬、小脳皮質の神経回路などにおける興奮性シナプスの形態や一部の抑制性ニューロン(神経細胞)の分化や発達に重要であることがわかった。また、自閉症に関連する行動解析から、CAPS2による分泌制御は社会行動や情動などに関係しており、短いCAPS2亜型の発現増加は、自閉症で見られるような社会的相互作用の低下、未知の環境への適応力の低下や不安の増大などの行動障害を示すことが明らかになった。この変異マウスをモデルとして使用することで、自閉症の発症や病態のメカニズムを解明する糸口となる可能性や、関連創薬にむけた基礎データを得ることができると期待できる。
2: おおむね順調に進展している
CAPS2-dex3の詳細な細胞学的、形態学的、および行動学的な解析が終了し、国際的な学術雑誌であるPNASに論文発表することができたことから、今年度の研究は計画の目標は十分に達成できた。
現在進めているCAPS1 cKOマウスの開発と、その表現型の解析を遂行することによって、CAPSファミリーの有芯小胞開口放出における機能的な役割と、脳神経機能や行動における生物学的な意義を明らかにするように、研究を進展させる。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
巻: 109 ページ: 21104-21109
10.1073/pnas.1210055109
J. Neurosci.
巻: 32 ページ: 15688-15703
10.1523/JNEUROSCI.1710-12.2012
http://www.lmn.bs.noda.tus.ac.jp/#!homej/c1lby