本研究ではサルに随意運動を行わせ、それらに脊髄介在ニューロン群、特に抑制性介在ニューロンが随意運動遂行にはたす役割を明らかにすることであった。そのため、手首屈曲伸展運動および精密把握運動を訓練し、当該ニューロン活動を定量化することを目標としてきた。最終年度の当該年度は、手首屈曲伸展運動タスクでは感覚処理系の抑制性介在ニューロン活動を、一方把握運動では運動出力系の抑制性介在ニューロン活動をそれぞれ評価を目指した。前者については、サルの健康状態の悪化に伴い実験が停滞したが、その後回復し平成26年5月時点で運動訓練が終了し、これから最後の手術を行った上記録を行う予定である。また過去に行った1頭を対象とした実験結果を再解析した結果、GABAa作動性の介在ニューロンは主に静的運動時に活動している可能性が示唆された。さらに、正中神経、橈骨神経から投射のある抑制性介在ニューロンの発火パターンと投射パタンについて解析を進めた。後者では興奮性と抑制性介在ニューロンの両者を記録して比較した。その結果、興奮性介在ニューロンは把握運動制御の背景にある筋シナジーの生成に密接に関わっているい事がspike-triggered averagingおよび筋電図と発火活動の時間相関解析などから明らかになった。対照的に抑制性介在ニューロンは個々の筋シナジーの形成には直接的な貢献をしないが、背景活動を調節することによって筋シナジーの特徴も明瞭化するために働いている可能性が示唆された。以上の結果から、体性感覚制御に関わる脊髄抑制性介在ニューロンは主に静的運動時に活動性を低下し、それによって体性感覚入力量を増加させて位置制御を行っていること、一方運動出力に関わる抑制性介在ニューロンは筋シナジー形成に間接的な貢献をしている可能性が提案された。
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