研究課題
心筋においては,nebulinの代わりに存在するnebulette (Nebt) のSH3ドメインにN-WASPのPro-rich領域が結合して,N-WASPはZ帯に局在化した.しかしこの局在化は恒常的にみられ,IGF-1シグナリングによって制御されていなかった.Nebt-N-WASP複合体によりアクチン重合核が形成され,アクチン線維形成が促進された.またアクチン重合活性をもつLmod2の局在は,IGF-1刺激によりZ帯付近から1 μmのアクチン線維の先端付近に移行した.Lmod2はIGF-1-PI3K-Aktシグナリングにより阻害されるGSK-3で強くリン酸化された.GSK-3でリン酸化されたLmod2はユビキチン化されて分解されたり,機能が阻害されると考えられる.これらの結果から,Nebtに沿って伸長した長さ0.15 μmのアクチン線維の先端にLmod2が結合し,IGF-1シグナリングによりアクチン線維をさらに0.85 μm伸長させて,その結果,1 μmのアクチン線維が形成されると考えられる.マウスに大動脈縮窄術 (TAC) を施し,病理的な肥大を引き起こした心臓では,線維化がみられ,圧・容積比で示される心機能が低下した.しかしIGF-1を作用させると,生理的な心筋細胞の肥大がもたらされ,線維化が抑制され,心機能が回復した.一方,N-WASP阻害剤を作用させると,心筋細胞の肥大が抑制され,線維化が促進され,心機能が顕著に低下した.これらの結果から,IGF-1シグナリングにより活性化されたN-WASPを介するアクチン線維形成が,心筋細胞の肥大と心機能に働いていると考えられる.さらに,骨格筋と心筋におけるN-WASPを介したアクチン線維形成の破綻が,筋疾患や心筋症につながることを実証するために,組織特異的なN-WASP cKOマウスを作製中である.
2: おおむね順調に進展している
骨格筋と心筋の筋原線維のアクチン線維形成のシグナル伝達機構と分子機構について,いずれもほぼ計画どおりに研究が進行している.特に心筋では,病理的な心肥大の症状と生理的な心筋細胞の肥大に,IGF-1によって活性化されたN-WASPがどのように働くかを明らかにすることができた.
骨格筋の筋原線維形成には,IGF-1シグナリングに加えて神経支配が重要であると考えられるので,今後は骨格筋培養細胞とマウス骨格筋組織において神経支配の影響についても調べる.また骨格筋や心筋特異的なN-WASP cKOマウスを作製し,Neb-N-WASP複合体やNebt-N-WASP複合体によるアクチン線維形成が,生理的な筋肥大や心肥大に必要であること,一方,それらの破綻が筋疾患や心筋症につながることを実証する.
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Mol. Biol. Cell
巻: 23 ページ: 4647- 4661
10.1091/mbc
http://life.s.chiba-u.jp/endo/hp/index.html