大脳においては局所領域内での神経活動だけではなく、複数の領野にわたって信号を受け渡しし、多数の神経細胞が協調的にかつ持続的に活動している。そこでげっ歯類において、光刺激マッピング法と広域神経活動光計測を組み合わせることで、大脳領野間の機能的シナプス結合を系統的に明らかにし、高次・低次領野間の結合様式とその可塑的性質を明らかにすることを目的とする。本年度は、覚醒下のChR2遺伝子組換えマウスの大脳皮質に対して、長期間(500ミリ秒)光刺激を行うことで、単なる前肢の動きではない複雑運動を大脳皮質全体にマッピングすることに成功した。その結果、リーチング領域とリズミック運動が大脳運動野の別々の領域で誘発されることがわかった。光刺激の頻度や強度を変化させることで、それぞれの領域での運動誘発の最適な細胞活動の周波数が異なること、運動速度とリズム速度は異なっており、それぞれ固有の値を持つことを見出した。さらにそれぞれの領野間では強い興奮性のシナプス結合は無いこと、むしろ領域間では抑制性のシナプス結合関係をもつことを見出した。それぞれの領域は独立に皮質下脊髄路に投射を行っていることから独立したモジュールを構成していることがわかったが、それぞれのモジュール内には解剖学的に高次と一次の運動野が存在していた。複雑運動には動物行動学的所作も含まれるが例えば、ロコモーションはリズム運動誘発領域で誘導されること、レバーを前肢の近くに置くと、光刺激によってリーチング領域、リズム領域でレバーの押し引きを行うなどがわかった。これらの結果から、運動野はある運動プリミティブの生成に重要な役割を持っている一方で、大脳皮質は新たな運動を誘発するために環境に素早く適応できる回路を内在させていることが示唆された。
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