研究課題
本研究では、脳で自己と外界の関係がどのように表現されているかを明らかにし、さらに対人関係の基礎となる脳内機構を明らかとすることを目的とする。特にこの際、後部頭頂皮質等の多感覚野が、周辺時空間に対する物理的な観点からの自己の位置付けから、社会的な観点からの他者と自己の関係付けまでに関与しており、その機能不全が自閉症者の「逆さバイバイ」やひいては社会性の発達の阻害を引き起こすと仮定し、健常者および障害者を対象とする心理物理・神経画像研究、さらには動物モデルの開発を統合的に行う。心理物理研究では、自閉症児(9-15歳)を対象に腕交差時に生じる時間順序判断の逆転を調べ、定型発達児に比べて自閉症児でこの逆転が少ないことを見いだした。さらに、幼児期に自閉症と診断されるもその後普通学級に進学した青年(15-19歳)で同様の実験を行い、自閉症的な性格特性(AQスコア)との比較を行った。この結果、腕交差時の時間順序判断の逆転率とAQスコアは有意に逆相関することを見出した。神経画像研究では、これまでfMRIデータにて領域間機能結合を評価することで、腕交差によって左後部頭頂皮質と右前頭前皮質との機能的結合が変化することを見出してきたが、今年度はさらに脳磁図(MEG)を用いて脳領域間の機能的結合を評価する系の開発に取り組み、ビームフォーミング技術を使用してMEG信号から皮質内の電流推定を行うなどして、脳領域間の虚部コヒーレンス値から機能的結合を推定することに成功した。さらに、動物モデルの開発では、マウスの行動実験系を開発し、これによりマウスにも自己身体表象が存在する可能性を示唆する結果を得た。その神経基盤を明らかにするため、組織化学実験の準備を進めデータを蓄積している。
2: おおむね順調に進展している
健常者および障害者を対象とする心理物理・神経画像研究、さらには動物モデルの開発を統合的に行っている。心理物理研究では、自閉症者を対象としたデータをまとめ論文投稿した。神経画像研究では、MEGで脳領域間の機能的結合を推定するシステムの構築に成功し論文発表し、動物実験でもこれまでのデータにて学会発表を行った。研究はおおむね順調に進展している。
これまでの研究で得られた、自閉症者を対象とした心理物理実験のデータやMEGを用いた神経画像のデータ、さらには動物実験のデータの取りまとめを行いつつ、それらの情報を効果的に統合させて、さらに研究を展開させていく。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (9件)
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