研究課題
周産期心筋症(Peripartum cardiomyopathy(PPCM))は、心疾患既往のない女性が、周産期(妊娠後期満22週から出生後満7日未満)に突然心不全を発症し、重症例は致命的となる重篤な疾患である。深刻な少子化と超高齢化に突入している我が国にとって、個々の出産の健全化は急務であるが、周産期心筋症の原因は不明である。7回膜貫通型受容体APJは、循環器系組織において高い発現が認められるホルモン受容体であるが、詳しい生理作用はほとんど明らかとなっていない。最近、我々は心臓特異的APJ過剰発現マウス(MHC-APJ)が、ヒトの周産期心筋症と類似の症状を呈することを突き止めた(未発表)。そこで、本研究では心臓におけるAPJ受容体機能に着目して、①MHC-APJマウスを周産期心筋症モデルマウスとして確立し、②原因不明、治療困難な周産期心筋症発症の分子メカニズムを解明することを目的とした。平成24年度は、周産期心筋症の発症メカニズムの解明に向け、妊娠中、妊娠後のMHC-APJマウスに関して、心エコー解析や心臓の組織病理学的解析を進め、MHC-APJマウスで認められるこれら病態は、ヒトの「周産期心筋症:Peripartum cardiomyopathy (PPCM)」と類似の症状であることを確認し、MHC-APJマウスは本疾患のモデルマウスであると結論づけた。さらに、母マウスから産仔を隔離する実験から、MHC-APJマウスで認められる周産期心筋症の発症には、出産後の「授乳」イベントが重要であることが示唆され、授乳母体の心臓において、幾つかのシグナル伝達因子の発現に変化が認められることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
MHC-APJマウスを用いた経時的な心エコー解析および病理解析から、本マウスが未だ発症原因が不明であるヒトの周産期心筋症の病態モデルとなり得ることを証明し、さらに、病態発症の要因として、新たに「授乳」イベントが重要であることを突き止めた。また、病態発症の分子機序として、シグナル伝達経路の異常の可能性を突き止めた。これらのことは、周産期心筋症においてAPJ受容体の活性化と授乳による周産期恒常性変化との組み合わせが極めて重要であることを示しており、病態発症の分子メカニズムを明らかとする突破口となると考えている。
昨年度の結果を受け、本年度は、心臓におけるAPJ受容体シグナルと、周産期心筋症との関連を解明するため、心臓内にて変動する遺伝子およびタンパク質の動態を解析するとともに、授乳イベントに重要な、プロラクチンおよびオキシトシンに着目し、APJ受容体シグナルや周産期心筋症の発症機序との関連解明に向けた分子的な解析を進める。
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