研究概要 |
ヒト静止立位維持中の姿勢(重心)の動揺パターンは,立位の神経制御メカニズムを反映する.本研究では,健常者およびパーキンソン病患者の静止立位時および歩行開始時の重心位置変動パターン,身体キネマティクス,神経指令を反映する筋電図を同時計測し,これらの計測データが,間欠制御仮説あるいは従来制御仮説のどちらに基づくモデルでより良く再現できるかを調べ,その理由を制御理論的に明らかにすることを目指している.具体的には,計測結果の再現性の高いモデルおよびその制御パラメータの値に基づき,間欠制御仮説の妥当性を検証すると共に,パーキンソン病患者の姿勢反射障害およびすくみ足は間欠制御が破綻した結果であるとの仮説を検証する.計測結果を再現するモデルのパラメータ値セットは神経症状の定量的診断数値と成り得る.平成23年度には,間欠制御による二重振子モデルの動態解析と制御理論の体系化を行った.また,健常者およびパーキンソン病患者の運動計測を継続的に実施し,姿勢機能に関する指標として,指標1:重心動揺の全ハワースペクトル,指標2:重心動揺の低周波帯域におけるスケーリング指数,指標3:重心動揺の高周波帯域におけるスケーリング指数,指標4:筋電図の低周波帯域パワー,指標5:筋電図の高周波帯域パワーを用いることで重心動揺のダイナミクスを定量化した.得られた指標に対して階層的クラスター解析を行い,重心動揺パターンが大きく2つのタイプに分類できることを示した.一方のクラスには健常者と比較的軽症なPD患者の重心動揺パタマンが属し,それらは間欠制御の特徴を示した.他方には比較的重症なPD患者の動揺パターンが属し,従来仮説の特徴を示した.さらに統計的検証とヒト静止立位姿勢を倒立振子制御系でモデル化した数値シミュレーションによる検証を行い,この結果が妥当なパターン分類であることを示した.
|
今後の研究の推進方策 |
静止立位時重心動揺の定量化・タイプ分類の精度を検証する必要がある.また,また重心動揺パターン分類の背後にある神経制御メカニズムに迫るため,健常者および患者の計測データを再現する数理モデル(制御モデル)を検討し,異なる重心動揺パターンの発生要因を制御論的に明らかにする予定である.また,23年度に得られた歩行計測の解析をすすめ,すくみ足の特徴を定量化する研究を推進する予定である.
|