研究課題/領域番号 |
23300166
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野村 泰伸 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50283734)
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研究分担者 |
佐古田 三郎 独立行政法人国立病院機構刀根山病院(臨床研究部), その他部局等, その他 (00178625)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生体システム / フィジオーム / 生体運動制御 |
研究概要 |
近年,我々はヒト直立姿勢を動的に安定化しつつ同時に運動の柔軟性も確保することができる神経制御メカニズムの新しい仮説「静止立位姿勢の間欠制御仮説」を提案している.本研究は,「典型的な神経疾患であるパーキンソン病患者が呈する姿勢反射障害およびすくみ足症状は脳が間欠制御を適切に行えなくなったことに起因する」との仮説を立て,その妥当性の検証を目的としている.すなわち,神経制御によって安定化されている姿勢が疾病によって如何に不安定化するかを明らかにすることで,健常者の立位姿勢制御メカニズムとしての間欠制御仮説の妥当性を検証し,同時に運動障害の発生メカニズムの解明を目指している.本研究の成果は,動的神経制御メカニズムに基づく運動障害の新たな定量的診断手法の開発に直結する. 研究の目的を達成するために,我々は健常者およびパーキンソン病患者の静止立位時および歩行開始時の重心位置変動を計測している.得られた姿勢変動の特性を定量化し,それらの特性が間欠制御仮説あるいは従来制御仮説のどちらに基づくモデルがより良く再現できるかを調べ,その理由を理論的に明らかにすることを目指している.現在,実験データを再現するモデルおよびその制御パラメータ値の推定を実施中である.特に,平成24年度では,ヒト静止立位時の重心動揺は心拍に起因する心循環動態によって引き起こされている可能性を示した.心循環動態が立位中の足関節に与える力学的影響は0.4 Nm程度と微小であるが,姿勢の安定化が間欠制御によってなされていれば,足関節の柔軟性が保たれ,その結果心循環動態に起因する小さな摂動であっても,ヒト被験者と同程度の重心動揺が発生することを示した.また,健常者およびパーキンソン病患者の運動計測を実施し,姿勢機能に関する新たな指標として,重心動揺密度関数解析および重心動揺速度の確率密度関数形状の定量化を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体の推進は,次の3つの具体的課題の進展により評価できる.(課題1)健常者およびパーキンソン病患者の静止立位時重心(姿勢)動揺と歩き始めを含む歩行時運動計測,これらの運動特性の定量指標化と定量指標に基づく両者の運動の特徴付け.(課題2)静止立位姿勢の神経フィードバック制御様式として,間欠制御および持続的制御を仮定した数理モデルの構築と両者の動態解析・動特性比較(実験データを再現するモデルパラメータの同定を含む)と,得られた結果と(1)で得られた定量指標化の対応付け.(課題3)すくみ足症状を呈するパーキンソン病患者の歩行動態が説明(再現)可能な動的モデルの提案と,(1)における歩行運動に関する指標との対応付け. 各課題に関して本研究開始から2年間で次の成果を挙げている.(1)既存,新規を含め様々な指標の検討が進展し,姿勢動揺に関しては現在,重心動揺データから相当な割合で被験者個人を特定できるほどspecificityの高い指標の組み合わせが明らかになりつつある.この成果は本年度内に著名国際誌に公表できる予定.(2)静止立位姿勢の神経制御および静止立位時の姿勢動揺の特性をよく再現することが可能な数理モデルの構築とその動態解析に関し, 2つの論文を著名国際誌に発表した.(3)現在,すくみ足症状を呈する非パーキンソン病患者と,すくみ足症状を示さないパーキンソン病患者の歩行計測を実施し,データ解析を進めている.特に,左右脚それぞれの歩行運動を支配する神経リズム生成機構を仮定し,歩行中に左右脚が逆位相で変動する協調運動は,両リズム生成機構間の相互作用が適切に作用することにより達成されるとする仮説モデルを構築しているところである.この仮説モデルに基づく臨床実験データ解析の実施により,相互作用の強度および強度の確率的変動特性の変化によってすくみ足症状の発生メカニズムが説明できつつある.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,健常者およびパーキンソン病患者の立位姿勢動揺を最もよく再現するモデルとモデルパラメータの同定を試みる.特に,間欠制御モデルとして,静止立位姿勢を倒立振子でモデル化し,それに能動的制御トルクが入力されるONモデルと能動的制御トルクが入力されないOFFモデルの間を間欠的に切り替るタイプのハイブリッド力学系を考える.ONモデルとOFFモデルを表わす線形微分方程式は,時間に関する離散化によって,線形ARMAモデル(ARMA-ONモデルとARMA-OFFモデル)と見なす.2つのARMAモデル間を動的に切り替る間欠制御モデルは非線形ARMAモデルとなる.計測された重心動揺を能動的トルクがONである時間区間群とOFFである時間区間群に分類し,それぞれのデータ群にARMA-ONモデルとARMA-OFFモデルを当てはめる.従来制御仮説は,全ての時間区間で能動的トルクがONであるとするものであり,全時間区間データにARMA-ONモデル当てはめることに対応する.間欠制御仮説と従来制御仮説に基づくARMAモデル当てはめの残差を解析し,どちらの仮説がより妥当であるかを統計的に検証する. また,すくみ足症状の発生メカニズムに関して,現在,すくみ足症状を呈する非パーキンソン病患者と,すくみ足症状を示さないパーキンソン病患者の歩行計測を実施し,そのデータ解析を進めている.特に,左右脚それぞれの歩行運動を支配する神経リズム生成機構を仮定し,歩行中に左右脚が逆位相で変動する協調運動は,両リズム生成機構間の相互作用が適切に作用することによって達成されるとする仮説モデルを構築している.この仮説モデルに基づいた臨床実験データ解析を実施することで,相互作用の強度および強度の確率的変動特性の変化によってすくみ足症状の発生メカニズムが説明できると考えている.最終年度は,この仮説を検証する.
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