我々は心筋細胞の伸展刺激によってカルシウムスパーク(筋小胞体カルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体からの局所的で自発的なカルシウム放出現象)頻度が増加することを報告してきた。過去の報告では、この現象には伸展刺激誘発性のNADPHオキシダーゼ(NOX2)由来の活性酸素(reactive oxygen species: ROS)増加が関与していることが分かっているが、我々は平成24年度までにこの現象にはミトコンドリア由来のROSも関与していることを明らかにした。平成25年度はこれをさらに確実に検証するために伸展刺激誘発性のミトコンドリア膜電位の変化を測定し、ミトコンドリアが伸展刺激誘発性に過分極することを見出した。これは前負荷の増大した収縮(収縮に伴うエネルギーが大きい)に対してミトコンドリアでのATP産生増大に備えた反応である可能性がある。また、さらにNOX2をブロックした時にも伸展刺激誘発性のミトコンドリア過分極が起こることから、伸展に伴うミトコンドリア過分極によるROS産生、さらにそれによるカルシウムスパークの増加、という一連の流れが解明された。 分担研究者の脇元とともに進めている新しい細胞伸展システムの開発は、前年度までにプロトタイプが完成したが、本年度の実用実験の結果、エアアクチュータの材料であるシリコンの粘弾性による経時的な形状変化が問題となることが明らかとなり、油圧マニピュレータを使用したシステムへと変更した。結果、従来のシステムより格段に伸展効率の良いシステムを構築することが可能となり、このシステムを用いて心筋細胞の最大弾性率が高い伸展状態では負荷依存性に変化することを確認、報告することができた。
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